きゅうび 九尾

栃木県大田原市の天鷹酒造が手掛ける限定流通の日本酒ブランドである。 最大の特徴は、毎回同じ酒を造るのではなく、原料米、精米歩合、酵母、醸造方法などを変えながら、新たな酒造りへ挑戦していることである。 天鷹酒造は「その時々に姿を変えて違う姿を現す酒」として九尾を展開しており、少量生産・限定流通で、商品ごとに異なる個性を楽しむことができる。売り切れ次第終了となる商品も多い。

製造者:天鷹酒造株式会社
生産地:栃木県大田原市
種類:日本酒
販売形態:数量限定・限定流通
特徴:商品ごとに原料米・精米歩合・酵母・醸造方法などを変更

狐との関わり

「九尾」という銘柄名は、栃木県・那須地方に伝わる「九尾の狐」の伝説に由来する。

天鷹酒造公式では、九尾の狐について、

「栃木・那須地区に伝わる伝説の霊獣」

として紹介しており、美女などさまざまな姿へ変化して人々を魅了した存在であることを商品コンセプトに取り入れている。

日本酒「九尾」も、この九尾の狐になぞらえて毎回異なる姿を見せる。

つまり、

・銘柄名が九尾の狐に由来する
・栃木県に実際に伝わる狐伝説を題材としている
・九尾の狐の「変化する」という特徴を酒造りへ取り入れている
・商品ごとに味わいや製法を変えている

という、非常に強い狐との関係を持つ日本酒である。

単にラベルへ九尾の狐を描いた商品ではなく、伝承の性質そのものをブランド設計へ落とし込んでいる点が特徴である。

那須の九尾の狐伝説

那須地方には、九尾の狐にまつわる有名な伝説が残されている。

日本では九尾の狐は、絶世の美女「玉藻前」に化けて宮中へ入り込み、鳥羽上皇を苦しめた妖狐として語られてきた。

正体を見破られた玉藻前は那須野へ逃れ、討伐された後、その怨念が「殺生石」になったという伝説が残る。

現在も栃木県那須町には殺生石があり、九尾の狐や玉藻前の物語と深く結び付いた土地として知られている。

天鷹酒造の九尾は、まさにこの那須地方に伝わる九尾の狐を酒の名前へ取り入れた商品である。天鷹酒造自身も、ブランド説明の冒頭で「栃木・那須地区に伝わる伝説の霊獣」と明記している。

「変化自在」の日本酒

九尾の大きな特徴が、「定番商品なのに毎回同じ酒ではない」ことである。

天鷹酒造では、

・原料米
・精米歩合
・酵母
・醸し方

など、これまで試したことのない条件へ積極的に挑戦している。

これは、九尾の狐がさまざまな姿へ変化したという伝承を、酒造りそのものへ置き換えたものといえる。

ある時は純米吟醸、ある時は純米大吟醸、ある時は低アルコールなど、九尾という名前を共有しながら、その中身は次々と変化する。

「次はどんな姿の九尾が現れるのか」という楽しみまでブランドの一部となっている。

2026年の九尾

2026年4月25日には、「九尾 純米大吟醸 R2 無濾過生原酒」が発売された。

この商品のテーマは、

「古米でも美味しい酒は造れる」

という挑戦である。

2025年の米不足や価格高騰を背景として、天鷹酒造は政府備蓄米を購入。その中で割り当てられた令和2年産「こしいぶき」を使用し、日本酒造りへ挑戦した。

原料米:令和2年産こしいぶき
精米歩合:50%
アルコール分:17度
日本酒度:-9
酸度:1.8
アミノ酸度:1.5
グルコース:1.7
容量:720ml

収穫から約5年が経過した米という難しい条件ながら、酒類総合研究所の研究や品種データ、杜氏の経験、それまでの九尾シリーズで蓄積した知見を活用して試験醸造を重ねた商品である。

味わい

2026年の「九尾 純米大吟醸 R2 無濾過生原酒」は、果実感のあるジューシーな香りを特徴としている。

香りにはカプロン酸エチルを生かした華やかさがあり、味わいは甘味と酸味のバランスを重視したやや濃厚なタイプ。

さらに飯米である「こしいぶき」の旨味を感じられる設計となっており、余韻には適度な苦味が加わることで味わいに複雑さを与えている。食中酒としても楽しめる幅広い酒質として造られている。

ただし、これはあくまで2026年の商品である。

「九尾」は毎回姿を変えること自体がコンセプトなので、別の商品ではアルコール度数や酒米、香り、味わいなどが大きく異なる。

天鷹酒造

九尾を造る天鷹酒造は、栃木県大田原市に蔵を構える酒造会社である。

九尾では、天鷹酒造が定番商品では試してこなかった原料や醸造方法などへ挑戦する場としての役割も持たせている。

造り手自身にとっても「新しい挑戦への喜びがある酒」と位置付けられており、消費者だけでなく酒蔵側も次の九尾がどのような酒になるのかを楽しみながら造っているブランドである。

限定流通

九尾は少量生産を基本としており、限定流通となっている。

商品は売り切れ次第終了し、次回はまた異なる仕様の九尾が登場する。

また、天鷹酒造の公式ページによると、九尾は天鷹酒造の店頭では販売されておらず、全国の取扱酒販店を通じて販売されている。栃木県内だけでなく、東京都、埼玉県、神奈川県、大阪府などにも取扱店が存在する。

この「一期一会」に近い販売スタイルも、次々と姿を変える九尾というブランドコンセプトとよく合っている。

九尾の狐と酒造り

九尾の面白さは、狐伝説を商品名だけで消費していないところにある。

九尾の狐は、美女など別の姿へ自在に変化する存在として語られる。

そこで天鷹酒造は、

九尾の狐
↓
姿を変える
↓
日本酒「九尾」も姿を変える
↓
原料米・酵母・精米歩合・製法を毎回変更する

という形で、伝承を酒造りのルールそのものへ変換している。

狐をテーマにした日本酒は多数存在するが、妖狐の「能力」まで商品の仕組みに取り込んでいる例は珍しい。

豆知識

「九尾」は一本の商品名というより、実験的な日本酒を次々と送り出すシリーズブランドに近い存在である。

そのため、「九尾」という名前の商品を過去に飲んだことがあっても、数年後に販売されている九尾はまったく違う酒になっている可能性がある。

天鷹酒造公式も、

「九尾もその時々に姿を変えて違う姿を現します」

と説明している。

これは九尾の狐という妖怪・霊獣の特徴を、日本酒という商品の性格へ非常にうまく落とし込んだ例である。

また、那須には殺生石という九尾の狐伝説の舞台そのものが現在も残されているため、

「栃木の狐伝説を、栃木の酒蔵が日本酒として表現している」

という地域文化との結び付きも非常に強い。

関連項目

  • 天鷹酒造
  • 九尾の狐
  • 玉藻前
  • 殺生石
  • 那須
  • 妖狐
  • 日本酒
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