きつねのおやど/まみゅっか 狐のお宿/Mamyukka
「狐のお宿」は、同人音楽サークル・Mamyukkaによる和風ファンタジー楽曲である。2019年4月28日の音系・メディアミックス同人即売会「M3-2019春」で頒布された作品『絡繰町レコオド』に収録され、配信版では2019年4月27日付の作品として登録されている。『絡繰町レコオド』全3曲のうち2曲目に配置され、歌唱はまめこ、作詞は未羽、作曲・編曲はオッカが担当した。 楽曲の舞台は、あやかしたちが暮らす「妖怪町」にある狐の宿である。そこで働いているのが、うまく化けることのできない子狐の少年「テン」。宿を訪れた正体不明の大妖怪の世話を任されるが、その客との出会いによって、物語はMamyukkaの「カラクリシリーズ」へつながっていく。歌詞には狐の宿、人間への変化、油揚げ、狐の鳴き声「コン」、狸との対比など、狐に関係する要素が多数盛り込まれている。 狐がタイトルに登場するだけではなく、主人公、舞台、登場人物、言葉遊びまで楽曲全体が狐を中心に組み立てられた、キツネとの関係が非常に深い作品である。
基本情報
タイトル:狐のお宿
アーティスト:Mamyukka
歌唱:まめこ
作詞:未羽
作曲:オッカ
編曲:オッカ
収録作品:絡繰町レコオド
収録順:2曲目
作品頒布開始:2019年4月28日(M3-2019春)
配信版表記:2019年4月27日
楽曲時間:5分05秒
ジャンル:同人音楽/J-Pop/和風ファンタジー
国:日本
『絡繰町レコオド』は、
- 絡繰町案内
- 狐のお宿
- 〒
の全3曲から構成されている。
楽曲について
「狐のお宿」は、一匹の子狐「テン」を主人公とした物語音楽である。
物語の舞台は、人ならざるものたちが暮らしている妖怪町。その中に、妖怪たちを客として迎える「狐のお宿」が存在する。そこで働くテンは、立派な妖狐とはほど遠い存在として描かれている。
テンは人間へ化けることも満足にできず、宿では下働きをしている。
しかし、ある日そこへ周囲の妖怪たちすら恐れるほどの大物が客として訪れる。
宿の者たちはその客を恐れ、相手をする役目をテンへ押し付ける。ところがテンは妖怪として未熟であるがゆえに、相手の恐ろしい気配そのものを十分に感じ取ることができない。
こうして「怖さを知らない未熟な狐」と「誰もが恐れる謎の客」という、少しコミカルな組み合わせが生まれる。
キツネとの関係
本作における狐との関係は非常に強い。
中心となっているのは、
主人公が子狐
狐たちが働く宿
狐が人間へ化ける
狐の鳴き声「コン」
油揚げ
狸との比較
狐による客へのもてなし
といった要素である。
したがって、単にタイトルへ「狐」を付けた楽曲ではない。
狐の妖怪文化そのものを使って、一つのファンタジー世界と物語を作り上げている。
ふぉくすなっ♪で分類するなら、「妖狐・化け狐を主人公とした物語楽曲」に位置付けられる作品である。
主人公の子狐「テン」
物語の主人公は、狐のお宿で働く「テン」という子狐である。
テンは黄金色の立派な毛並みを持つ狐たちとは異なり、くすんだ毛並みをした未熟な子狐として描かれている。
さらに妖怪として重要な能力である「変化」もうまくできない。
人間の姿へ化けても上手にはいかず、宿では下働きを任されている。
周囲からは役立たずのように扱われているが、完全に追い出されているわけではない。
亡くなった父との縁もあり、宿の女将たちがテンを置いてくれていることが歌詞から分かる。
そのためテンは、
強大な妖狐
ではなく、
まだ一人前になれない子狐
として物語の中心にいる。
人間へ化ける狐
「狐のお宿」では、日本の狐伝承を代表する能力の一つである「変化」が明確に登場する。
狐は日本の昔話や伝説において、人間の姿へ変身できる存在として繰り返し語られてきた。
美しい女性へ化ける狐。
旅人へ化ける狐。
老人や子供へ化ける狐。
目的も、人間を騙す場合から、人間と暮らすための場合までさまざまである。
本作のテンも、人間へ化ける能力を持っている。
ただし、まだ未熟であるため成功しているとは言い難い。
ここでは「狐は人に化ける」という古典的な狐像を取り入れながら、それを「変化が下手な子狐」というキャラクターの弱点へ変えている。
狐のお宿
舞台となるのは、その名の通り「狐のお宿」である。
ここでは狐たちが宿を切り盛りし、訪れた妖怪たちをもてなしている。
作中では鬼や神などさまざまな存在が宿を訪れ、賑やかな宴が続いていることが描かれる。
つまり普通の人間向け旅館ではない。
妖怪たちが利用する異界の宿であり、その従業員が狐たちなのである。
日本の創作では狐が旅館や茶屋、料亭などを営む設定が使われることがあるが、本作ではそれを本格的な妖怪町の宿泊施設として設定している。
狐たちによるおもてなし
「狐のお宿」で働く狐たちは、客へ料理を運び、宿を切り盛りする。
作曲者のオッカ自身も、本曲について、狐たちが一列に並んで襷を掛けている光景を思い浮かべられる歌詞が気に入っていると述べている。
この一言からも、本曲の世界では一匹の狐だけではなく、多数の狐が宿の従業員として働いていることが分かる。
狐たちが忙しく動き回り、
客を迎える
料理を運ぶ
宴を盛り上げる
という、賑やかな妖怪旅館の姿が描かれている。
「コン」という言葉遊び
本作では、狐を象徴する「コン」がさまざまな形で使われる。
日本では「コンコン」が狐の鳴き声として広く定着している。
「狐のお宿」では、その「コン」を普通の日本語へ混ぜ込むことで、狐らしい言葉遊びが作られている。作曲者オッカも、狐たちが襷を「コン」と掛ける部分について言及している。
ほかにも、楽曲終盤では狐の鳴き声を思わせる「コンコン」が繰り返される。
そのため「コン」は、
狐の鳴き声
であると同時に、
楽曲のリズムや言葉遊び
としても機能している。
油揚げ
「狐のお宿」では、宿で運ばれる料理として油揚げも登場する。
油揚げは、日本文化において狐と非常に強く結び付いた食べ物である。
稲荷神への供物として油揚げが使われるようになり、やがて「狐は油揚げが好き」という俗信が広く定着した。
そこから、
きつねうどん
きつねそば
いなり寿司
など、狐を名称に持つ料理も生まれている。
本作では、狐が営む宿で油揚げを客へ運ばせることで、この広く知られた狐と油揚げの関係をコミカルに取り入れている。
狐と狸
歌詞では狸も登場する。
テンは、出来の悪い狐であることを狸に知られることさえ恥ずかしい、というような扱いをされている。
狐と狸は、日本の昔話や伝承において並べて語られることの多い動物である。
どちらも、
人へ化ける
人間を化かす
妖怪として語られる
という共通点を持つ。
そのため日本では「狐と狸の化かし合い」という言葉まで存在する。
本作でも「狐」と「狸」を並べることで、妖怪としての狐文化を踏まえたユーモラスな表現になっている。
大妖怪の来訪
物語が大きく動くのは、狐のお宿へ謎の客がやって来てからである。
その人物を知る者はいない。
しかし姿を見ただけ、あるいは気配を感じただけで、宿にいる妖怪たちはただ者ではないことを察する。
周囲の妖怪たちは恐怖に震え、その客の相手をしたがらない。
そこで白羽の矢が立つのがテンである。
一見すると、
「役立たずだから危険な客を押し付けられた」
という不憫な展開である。
しかし実際には、テンが未熟な妖怪であることが幸いする。
妖力を感じ取れないテン
周囲の妖怪たちが客を恐れているのに対し、テンにはその理由がよく分からない。
その客が放つ圧倒的な気配を感じ取れるほど、妖怪として成熟していないためである。
普通なら「未熟」という欠点だったものが、ここでは逆に長所となる。
強大な妖怪だから怖い。
しかし、その強大さが分からないテンは怖がらない。
この構図によって、他の妖怪たちなら近づくことも難しい相手へ、テンだけが自然に接することができる。
客との出会い
テンが恐る恐る離れへ向かうと、そこにいた人物は周囲が怯える姿とは異なり、驚くほど静かで穏やかだった。
客は本を読み、その場には静かな時間が流れている。
そして彼は、自分が遠い「カラクリの町」から来た使いであることをテンへ話す。
ここで「狐のお宿」という一話完結の妖怪譚が、Mamyukkaの「カラクリシリーズ」の世界へ接続される。
絡繰町との関係
『絡繰町レコオド』は、Mamyukkaが展開する「カラクリシリーズ」の「追憶編」として紹介されている。
公式の作品紹介では、
「小狐がくぐる鳥居には煤けた文字で『絡繰町』」
という設定が提示されている。
そのため『絡繰町レコオド』全体で見ると、一匹の小狐が「絡繰町」に関わっていく物語になっていることが分かる。
「狐のお宿」は、その小狐・テンとカラクリの町から来た人物が接触する重要なエピソードと考えられる。
「カラクリシリーズ追憶編」
Mamyukkaは『絡繰町レコオド』について、「カラクリシリーズ追憶編」と明記している。
つまり本作は単独の和風妖怪CDではなく、すでにMamyukkaが展開していたカラクリシリーズの過去に関わる物語である。
収録曲も、
「絡繰町案内」
「狐のお宿」
「〒」
という順番になっており、一つの世界観を共有している。
狐のお宿での出会いが、その後の「絡繰町」へどのようにつながるのかを考えながら聴ける構成となっている。
「小狐がくぐる鳥居」
作品全体を象徴する言葉が、「小狐がくぐる鳥居」である。
鳥居と狐という組み合わせは、日本では稲荷信仰を強く連想させる。
特に朱色の鳥居と狐像の組み合わせは、伏見稲荷大社をはじめとする稲荷神社の代表的なイメージとなっている。
ただし『絡繰町レコオド』について、特定の稲荷神社や稲荷信仰そのものを題材にしているとする説明は確認できない。
そのため、
鳥居+狐=稲荷を連想させる和風ビジュアル
という文化的な関連はあるものの、
「稲荷神の狐を主人公とした作品」
と断定することはできない。
妖狐としてのテン
テンは人間へ化けることのできる狐であるため、現実の動物としてのキツネではなく、妖怪・妖狐に分類できる存在である。
ただし、九尾の狐のような強大な妖怪ではない。
むしろ、
変化が下手
妖気にも鈍感
宿では下働き
周囲から頼りなく見られている
という、一人前になる前の小さな狐である。
「妖狐」という言葉から想像される恐ろしさや妖艶さを逆転させた、親しみやすい主人公となっている。
「出来損ない」が物語を動かす
テンの「妖怪として未熟」という性質は、物語の核心でもある。
通常ならそれは欠点である。
しかし、大妖怪が宿へ来た場面では、他の妖怪たちは相手の力が分かるからこそ怖がってしまう。
テンだけは分からない。
だから近づける。
そして話ができる。
結果として、テンの「出来損ない」という弱点が、誰にもできなかったことを可能にする。
狐を強く賢い存在として描くのではなく、「未熟な狐だからこそできること」を物語にしている点が、本作の大きな魅力である。
まめこの一人多役
本曲の歌唱は、Mamyukkaのボーカル・まめこが担当している。
作曲者のオッカは「狐のお宿」について、登場する声を一人で歌い分けていることに触れ、その「変化術」を高く評価している。
これは狐の物語として非常に面白い特徴である。
楽曲の主人公は、人間へ「化ける」狐。
一方、歌唱するまめこも、一人で複数の役・声色へ「化ける」。
作曲者自身がこれを「変化術」と表現しているため、狐の変化とボーカリストの歌い分けが意図的に重ねて語られている。
和風サウンド
『絡繰町レコオド』は、和風の音色を前面に出した作品である。
公式紹介では「チントンシャンの音色」が作品を綴ると表現され、作曲者のオッカも「少しお祭り感のある、綺麗な和風とは一線を引いた和CD」と振り返っている。
そのため本作は、静かで雅な和風というより、
祭り
妖怪
宿
宴
狐
が入り交じる、賑やかで少し奇妙な「妖怪町」の和風世界を音楽で表現している。
『絡繰町レコオド』
『絡繰町レコオド』は、2019年春にMamyukkaが発表した3曲入り作品である。
Mamyukka公式SoundCloudでは2019年4月28日のM3-2019春で頒布開始と案内され、CDではなく音源ダウンロード用パスコード付きのミュージックカード形式で展開されたことが記されている。
配信サービスでは2019年4月27日の日付で登録されており、全3曲・約12分の作品となっている。
「狐のお宿」はその中心となる2曲目であり、5分05秒と3曲中でも長い物語曲である。
2022年の単独配信
「狐のお宿」は、後に単独シングルとしても配信された。
TuneCore JapanのTHE MAGAZINEでは、2022年1月8日にMamyukkaの「狐のお宿」が全1曲の作品として配信開始されたことが紹介されている。
この際にも作品紹介として、
小狐
鳥居
絡繰町
カラクリシリーズ追憶編
という設定が改めて掲載されている。
したがって、
2019年:『絡繰町レコオド』収録曲として発表
2022年:単曲でもデジタル配信
という形で展開された作品である。
Mamyukkaについて
Mamyukkaは、物語性の強いファンタジー音楽を制作する日本の同人音楽サークルである。
配信プロフィールでは、ファンタジーを中心に、
ホラー
電波系
和風
アラビアン
など多彩なジャンルを扱い、芝居や効果音を取り入れたミュージカル的な作品も多いと紹介されている。
主な制作メンバーとして、
オッカ:音楽
まめこ:歌唱・声
未羽:文章・作詞
が活動しており、「狐のお宿」もこの三者によって、
オッカ=作曲・編曲
未羽=作詞
まめこ=歌唱
という形で制作された。
狐関連楽曲としての位置付け
「狐のお宿」は、狐との関係が特に深い物語楽曲である。
タイトルだけではなく、
主人公が子狐のテン
狐たちが宿を営む
人間への変化能力
狐と狸の対比
狐の鳴き声「コンコン」
油揚げ
鳥居
妖怪町
と、楽曲の世界そのものが狐文化を中心として構築されている。
さらに、主人公テンの「未熟でうまく化けられない狐」という個性が物語を動かす。
強大な九尾の狐でも、人を恐怖に陥れる妖狐でもない。
役立たずと見られていた一匹の小さな狐が、自分にしかできない形で恐ろしい大妖怪へ近づき、やがて「絡繰町」につながる縁を得る。
日本の狐伝承にある「変化」「コンコン」「油揚げ」「狸との対比」といった要素を使いながら、コミカルで温かみのあるオリジナルの子狐物語へ仕上げた、Mamyukkaらしい狐関連楽曲である。