ふかがわこいきつね/ながやまようこ 深川恋キツネ/長山洋子

日本の歌手・長山洋子による楽曲である。1999年3月24日に発売されたシングル『傘』のカップリング曲として収録された。作詞は小田めぐみ、作曲は樋口義高、編曲は伊戸のりおが担当している。 楽曲の主人公は、東京・深川の稲荷にいる一匹のキツネである。人々の恋の願いを聞く立場にありながら、自分自身も参拝に訪れた女性へ恋をしてしまうという、ユーモラスで切ない物語が描かれている。歌詞にはキツネの鳴き声、ひげ、尻尾、稲荷など、狐に直接関係する要素が多数登場する。

基本情報

タイトル:深川恋キツネ
アーティスト:長山洋子
作詞:小田めぐみ
作曲:樋口義高
編曲:伊戸のりお
発売日:1999年3月24日
収録シングル:傘
収録順:2曲目
レーベル:ビクター
国:日本

シングル『傘』には以下の4曲が収録されている。

  1. 傘
  2. 深川恋キツネ
  3. 傘(オリジナル・カラオケ)
  4. 深川恋キツネ(オリジナル・カラオケ)

Apple Musicでも『傘 - EP』の収録曲として、1999年3月24日発売と確認できる。

その後、2000年2月23日発売の作品『2000年、洋子の世界』や、2003年11月26日発売のベスト盤『じょんから~長山洋子ベスト』などにも収録された。

楽曲について

「深川恋キツネ」は、深川の稲荷にいるキツネを主人公とした物語歌である。

このキツネは、人々の願いを聞いてあげる存在として登場する。特に恋の悩みを抱える人々に寄り添い、願い事を聞く、どこか人情味のあるキャラクターとして描かれている。

ところが、あるとき恋の願いをするために訪れた女性を見て、キツネ自身が一目惚れしてしまう。

本来なら参拝者の恋を見守る側であるキツネが、自分自身も恋に落ちてしまうという逆転が、本作の大きな面白さとなっている。

しかし相手は人間であり、キツネ自身もその恋が簡単には叶わないことを分かっている。

人間の恋を応援する立場でありながら、自分の恋についてはどうすることもできない。コミカルな言葉遣いの中に、片思いの切なさも含まれている。

キツネとの関係

本作では、キツネは単なるタイトルのモチーフではなく、物語の主人公そのものである。

歌詞には、

・深川の稲荷にいるキツネ
・キツネの鳴き声を思わせる表現
・長いひげ
・尻尾
・もう一匹の「相棒キツネ」

など、狐に直接結び付く要素が多数登場する。

そのため、狐を比喩として利用した楽曲ではなく、明確にキツネを人格化して主人公に据えた作品である。

深川稲荷とキツネ

主人公は「深川稲荷」のキツネとして描かれている。

日本では稲荷信仰と狐の結び付きが非常に強い。

稲荷大神そのものが狐というわけではなく、狐は稲荷大神の眷属・使いとして広く知られている。稲荷神社では狐の像が置かれることも多く、現在でも神社と狐を結び付ける代表的な文化となっている。

本作では、この「稲荷にいる狐」という日本人に馴染み深いイメージを利用している。

ただし、歌詞中の「深川稲荷」が特定の実在する神社を指しているのか、それとも江戸・深川を舞台にした創作上の稲荷なのかについて、確認できる公式資料では明示されていない。

恋するキツネ

「深川恋キツネ」で特に特徴的なのが、キツネ自身が人間の女性へ恋をすることである。

女性は恋愛成就を願って稲荷へやって来る。

本来ならその願いを聞いてあげる立場のキツネだが、祈る女性を見て、自分まで恋に落ちてしまう。

狐と人間の恋という題材は、日本の昔話や伝承でも多く見られる。

代表的なものに、人間へ化けた狐が男性と夫婦になる「葛の葉」の物語などがある。狐が人間に恋をし、人間社会へ関わっていくという物語は、古くから日本の狐文化の重要な一側面となっている。

ただし、「深川恋キツネ」が特定の狐伝承を直接下敷きにしているという公式説明は確認できない。

本作ではそうした伝統的な「狐と人間の恋」というモチーフを思わせながら、より親しみやすい歌謡曲として描いている。

尻尾を隠すキツネ

歌詞では、主人公が尻尾を隠しながら女性を見守ろうとする姿も描かれる。

狐が尻尾を隠すという表現は、日本の狐伝承を強く連想させる。

昔話では、人間へ化けた狐が正体を隠していても、尻尾だけは隠しきれず、それを見られたことで正体がばれてしまうという話がある。

そのため「尻尾を隠す」という行動は、狐が人間社会の中で正体を悟られないようにする姿を象徴する表現でもある。

本作の主人公も、キツネのまま堂々と女性へ恋心を伝えるのではなく、そっと尻尾を隠し、遠くから祈る。

ここには、キツネと人間という種の違いによって恋が叶わない切なさも感じられる。

「コンコン」とキツネ

楽曲では、キツネの鳴き声を思わせる「コンコン」を基調とした掛け声が繰り返される。

日本では、童謡や昔話などを通してキツネの鳴き声を「コンコン」と表現する文化が広く定着している。

実際のキツネはさまざまな声を発するため、必ずしも「コンコン」と鳴くわけではない。しかし、日本の創作文化では非常に分かりやすい狐の記号となっている。

「深川恋キツネ」では、この鳴き声をそのまま楽曲のリズムや掛け声へ取り込むことで、最初から最後まで主人公がキツネであることを印象付けている。

江戸・深川の世界観

本作では、深川、稲荷、奉行など、江戸を思わせる言葉が多く用いられている。

主人公のキツネ自身も、下町に暮らす威勢の良い江戸っ子のような口調と性格で描かれている。

このため、神秘的で恐ろしい妖狐というよりも、下町に暮らす人情味のあるキツネというキャラクターになっている。

人々の悩みを聞き、恋を応援し、そして自分も恋をする。

狐を人間と同じように笑い、悩み、恋をする存在として擬人化したところが、本作の大きな魅力である。

『NHKコメディーお江戸でござる』との関係

長山洋子のビクター公式プロフィールでは、「深川恋キツネ」が『NHKコメディーお江戸でござる』に関連する作品として記載されている。

プロフィールには、長山洋子の七夕公演において第一部「深川恋キツネ」が『NHKコメディーお江戸でござる』より上演されたことが記録されている。

そのため本作は、楽曲としてだけでなく、江戸を舞台とした舞台・コメディ的な世界とも結び付いて展開された作品である。

深川、稲荷、江戸言葉、恋するキツネという楽曲の設定も、こうした「お江戸」の世界観によく合ったものとなっている。

長山洋子について

長山洋子は、日本の歌手である。

1980年代にはアイドル歌手としてポップスを中心に活動し、その後1993年に演歌歌手へ転向。「蜩」「捨てられて」「たてがみ」「じょんから女節」など多数の作品を発表してきた。

「深川恋キツネ」は1999年に発売されたシングル『傘』のカップリング曲として発表された後、ベストアルバムなどにも複数回収録されている。2003年の『じょんから~長山洋子ベスト』でも全16曲中12曲目に選ばれている。

人間を化かす妖しい狐ではなく、深川の稲荷で人々の恋を見守りながら、自分自身も人間へ恋をしてしまう一匹のキツネを描いた、明るさと切なさを併せ持つ狐関連楽曲である。

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