こさっくぎつね コサックギツネ

中央アジアの広大な草原、半砂漠、砂漠に生息する中型のキツネである。

概要

コサックギツネは、中央アジアの広大な草原、半砂漠、砂漠に生息する中型のキツネである。淡い灰褐色の体毛、大きな耳、黒い尾の先端を特徴とする。

別名を「ステップギツネ」といい、樹木の少ない開けた土地での生活に適応している。特定の狭い縄張りに定住せず、獲物や積雪の状態に応じて移動する遊動性の強い動物である。

キツネとしては比較的社会性があり、つがいや成長した子供を中心とする小さな集団を作ることがある。複数の個体が近接した巣穴を利用し、冬には家族群で行動する場合もある。

基本情報

項目

内容

分類

哺乳綱・食肉目・イヌ科・キツネ属

学名

Vulpes corsac

英名

Corsac Fox/Steppe Fox

別名

ステップギツネ、コルサック

頭胴長

約45~60センチメートル

尾長

約19~35センチメートル

肩高

約30センチメートル

体重

約1.6~3.2キログラム

食性

肉食性の強い雑食性

主な活動時間

夜間、薄明薄暮時

分布

中央アジア、北東アジアの一部

保全状況

低危険種(LC)

アカギツネよりも小さく軽い。雄は雌よりわずかに大きい傾向があるが、体格の性差はそれほど目立たない。

名前の由来

「コサック」または「コルサック」は、ロシア語で本種を表す「корсак(korsak)」に由来する。さらにその語源は、テュルク系諸言語で小型のキツネを表す「karsak」などの言葉にさかのぼると考えられている。

ロシアの騎馬集団や民族集団を表す「コサック」と日本語では同じように表記されるが、直接の関係はない。

英名の「Steppe Fox」は「ステップに暮らすキツネ」という意味である。ステップとは、ユーラシア大陸内陸部に広がる樹木の少ない温帯草原を指す。

学名の属名「Vulpes」はラテン語でキツネを意味し、種小名の「corsac」には本種の現地名が使われている。

分類

コサックギツネはキツネ属に分類される「真のキツネ」の一種である。

複数の亜種が提唱されており、一般には次の3亜種に分けられることがある。

  • Vulpes corsac corsac
  • Vulpes corsac kalmykorum
  • Vulpes corsac turkmenicus

ただし、亜種の区分や分布境界については資料によって違いがある。

コサックギツネの化石は更新世の地層から発見されている。過去の寒冷期には現在より西まで分布し、ヨーロッパ中部にも生息していたと考えられている。

外見

体は細身で、脚はアカギツネと比べてやや長く見える。吻は短く先がとがり、耳は大きく、付け根の幅が広い。

背中は淡い灰色、黄灰色、赤みを帯びた灰褐色で、銀色の差し毛が混じる。体側は背中より明るく、腹部、喉、顎は白色または淡い黄色である。

尾は長くふさふさしており、先端が黒色になる。アカギツネの尾先は白くなることが多いため、両種を見分ける手掛かりとなる。ただし、遠距離からは毛色や光の状態によって判別が難しい場合もある。

耳の後ろは赤褐色または灰褐色で、アカギツネのようなはっきりした黒色にはならないことが多い。四肢も比較的淡い色をしている。

夏毛と冬毛

季節によって毛の長さと色が大きく変化する。

夏毛は短く粗く、赤褐色や黄褐色が目立つ。体が細く、脚が長い印象になる。

冬毛は非常に長く密になり、淡い灰色や銀灰色が強くなる。厚い下毛が体温を保ち、中央アジアの厳しい寒さから体を守る。首や肩の毛も長くなり、夏よりも丸みのある大きな体に見える。

冬毛の質が高いことから、古くから毛皮を目的に捕獲されてきた。

分布

ユーラシア大陸内陸部の草原地帯に広く分布する。

主な分布国・地域は次のとおりである。

  • ロシア南部
  • カザフスタン
  • ウズベキスタン
  • トルクメニスタン
  • キルギス
  • タジキスタン
  • モンゴル
  • 中国北部・西部
  • アフガニスタン北部
  • イラン北東部

西はボルガ川下流域やカスピ海周辺から、東はモンゴル、中国北部、満州、ロシアのザバイカル地方まで分布する。

個体数や分布範囲は一定ではなく、獲物の増減、降雪量、干ばつ、草原火災などによって大きく変動する。一時的に通常の分布域から遠く離れた場所へ現れることもある。

生息環境

開けた草原、半砂漠、乾燥した低木地、砂漠の周辺を好む。

主な生息環境には次のようなものがある。

  • ステップ
  • 乾燥草原
  • 半砂漠
  • 砂地
  • 塩湖周辺
  • 低い丘陵地
  • 疎らな低木地

森林、密生した低木地、山岳地帯、湿地、耕作地、人間の居住地は避ける傾向がある。

コサックギツネは深い雪の上を移動することが苦手である。脚が細く、足裏もホッキョクギツネほど雪上歩行に適していないため、雪が深く積もる地域では獲物を捕らえにくくなる。

草原への適応

中央アジアの草原は、夏には高温で乾燥し、冬には気温が大きく下がる。コサックギツネは季節によって毛を生え替えることで、この激しい気温差に対応している。

淡い灰褐色の体毛は、乾いた草や砂、裸地に溶け込む保護色となる。大きな耳は地中や草むらを動く小動物の音を捉えるのに役立つ。

水場から離れた場所でも生活でき、必要な水分の多くを獲物から得る。長期間まったく水分を必要としないという意味ではないが、自由な水を頻繁に飲めない乾燥環境に適応している。

特定の場所を強く守らず、餌が少なくなれば別の地域へ移動する。この遊動性も、環境変化の大きな草原で生きるための重要な特徴である。

巣穴

自分で巣穴を掘ることもあるが、ほかの動物が作った巣穴を利用することが多い。

利用する巣穴には次のようなものがある。

  • マーモットの巣穴
  • ジリスの巣穴
  • アナグマの巣穴
  • 他個体の古い巣穴

自分で掘った巣穴は比較的浅く、構造も単純である。ほかの動物が作った大きな巣穴を利用する場合は、複数の入口や休息場所を持つことがある。

巣穴が近接して集まり、複数の個体が利用する場所は「コサックの町」に例えられることがある。ただし、常に大規模な群れが共同生活をしているわけではなく、つがいや親子の巣穴が近くに集まったものと考えられる。

巣穴は休息、出産、子育て、天候からの避難に使われる。吹雪や極端な寒さの際には巣穴にこもる。

食性

肉食性が強く、ネズミ類を中心とする小型動物を食べる。

主な食べ物は次のとおりである。

  • ハタネズミ類
  • アレチネズミ類
  • ハムスター類
  • トビネズミ類
  • ジリス
  • ナキウサギ
  • 小型のウサギ類
  • 鳥類
  • 鳥の卵
  • トカゲ
  • 昆虫
  • 動物の死骸

獲物が少ない時期には、果実、種子、草などの植物質を食べることもある。地域によっては昆虫が食物の大きな割合を占める。

モンゴルでは、コサックギツネの糞から多くの植物の種子が確認されている。果実を食べることで、種子散布にも関わっている可能性がある。

狩り

おもに夜間に単独で獲物を探す。大きな耳と優れた聴覚を使い、草むらや地中にいるネズミの動きを捉える。

獲物の位置を特定すると、高く跳び上がって前足から飛び込み、逃げ道をふさいで捕らえる。この狩り方はアカギツネなどにも見られる。

コサックギツネは木や岩場を登る能力に優れている。一方、走る速さや持久力は特別高いわけではなく、開けた場所ではイヌやオオカミから逃げ切れない場合がある。

小さな集団で移動することはあるが、常に協力して獲物を追い詰めるとは限らない。家族群が同じ餌場を利用しているだけの場合もあり、集団狩猟の実態には不明な点がある。

生態

野生ではおもに夜間と薄明薄暮時に活動する。獲物が不足する冬や、子供へ多くの餌を運ぶ時期には昼間も活動する。

キツネ類の中では比較的社会性があり、つがい、親子、成長した前年の子供などで小さな集団を作ることがある。複数の個体が同じ巣穴や隣接する巣穴を利用する場合もある。

固定した縄張りへの執着は弱く、食物や気象条件に応じて広い範囲を移動する。個体同士は鳴き声、姿勢、尿や糞による匂い付けを使って意思を伝える。

嗅覚、視覚、聴覚はいずれも優れている。アカギツネと比べて体臭が弱いとする記録もあるが、コサックギツネにもイヌ科動物特有の臭腺と匂いによる情報伝達がある。

冬の移動

深い積雪はコサックギツネにとって大きな障害となる。雪の下にいる獲物を捕らえにくくなり、移動に多くのエネルギーを使うためである。

冬になると積雪の少ない南方や低地へ移動する個体群がある。移動距離が数百キロメートルに達したという報告もある。

サイガなどの有蹄類の群れを追い、その足によって踏み固められた雪の上を移動することもあるとされる。また、有蹄類が掘り出した植物や、死亡した個体の死骸を利用する機会も得られる。

厳しい冬には大量死が発生し、地域個体群が急減することがある。その後、獲物が増えて環境が回復すると、繁殖と移動によって再び個体数を増やす。

繁殖

繁殖期はおもに1~3月である。繁殖期の初めには一頭の雌をめぐって複数の雄が争い、その後につがいを形成する。

基本的には一夫一妻と考えられ、形成されたつがいは同じ巣穴を利用する。雄は出産後も家族の近くに残り、子育てに関わるとみられている。

妊娠期間は約52~60日で、子供はおもに3~4月に生まれる。一度に生まれる子供は一般に2~6頭で、平均5頭前後である。餌が豊富な年には10頭前後の大きな群れが生まれることもある。

子供は目と耳が閉じた状態で生まれる。生後約1か月で巣穴の外へ出始め、約2か月で離乳する。夏の間に成長し、秋から冬にかけて親とともに移動する場合がある。

天敵

主な天敵には次のような動物がいる。

  • オオカミ
  • アカギツネ
  • 野生化したイヌ
  • イヌワシ
  • ソウゲンワシなどの大型猛禽類
  • ワシミミズク類

オオカミやイヌは、雪が深くコサックギツネが自由に走れない冬に大きな脅威となる。

アカギツネはコサックギツネよりも大きく、餌や巣穴をめぐる競争相手となる。アカギツネがコサックギツネの巣穴へ入り込み、子供を殺す場合もある。

幼い個体は大型のワシやフクロウに捕食される。モンゴルでは、猛禽類の巣からコサックギツネの骨や毛が見つかった例がある。

アカギツネとの違い

コサックギツネの分布域にはアカギツネも生息している。両種は外見が似ているが、体格や尾の模様、生息環境などに違いがある。

比較項目

コサックギツネ

アカギツネ

体格

小型で軽い

コサックギツネより大型

体色

淡い灰褐色、黄灰色

赤褐色が中心

尾の先

黒色

白色が多い

耳の後ろ

赤褐色から灰褐色

黒色が目立つ

主な環境

草原、半砂漠、砂漠

森林、草原、農地、都市など

縄張り

遊動性が強い

比較的定住性が強い

社会性

小集団を作ることがある

おもに単独または家族群

深い雪

苦手

比較的対応できる

アカギツネは環境への適応範囲が広く、森林や農地、人間の居住地にも進出できる。コサックギツネは開けた乾燥地への依存が強く、人間の多い場所を避ける傾向がある。

チベットスナギツネとの違い

中国西部やチベット高原周辺では、チベットスナギツネと分布が接する可能性がある。

コサックギツネは顔が細く、耳が大きく、一般的なキツネらしい外見をしている。チベットスナギツネは頭部が幅広く、頬の毛が張り出して四角い顔に見える。

また、コサックギツネは中央アジアの低地草原や半砂漠を広く利用するのに対し、チベットスナギツネは標高の高いチベット高原に強く適応し、ナキウサギへの依存度が高い。

人間との関係

冬毛が厚く柔らかいため、古くから毛皮を目的に狩猟・捕獲されてきた。19世紀には、西シベリアの都市だけで年間数千から1万枚規模の毛皮が取引された記録がある。

現在も一部の国では合法的な狩猟や毛皮取引の対象となる。わな、猟銃、狩猟犬などが使われるほか、ほかの動物を対象としたわなや毒餌によって死亡する場合もある。

ネズミや昆虫を捕食するため、草原や農地における害獣の個体数を抑える役割を持つ。家畜を襲うことは少ないが、家禽や小型の家畜を捕食する可能性はある。

野生個体は人間を強く警戒する。歴史上、飼育された記録はあるが、一般的な家庭動物として家畜化された種ではない。

個体数の大きな変動

コサックギツネは分布域が広い一方、地域ごとの個体数が非常に激しく変動する。

主な原因は次のとおりである。

  • ネズミ類の周期的な増減
  • 干ばつ
  • 厳しい冬
  • 深い積雪
  • 草原火災
  • 感染症
  • 狩猟圧
  • 土地の耕作化

条件の悪い年には、地域個体群が短期間で大幅に減少することがある。一方、獲物が増えた年には繁殖率が高まり、周辺地域から個体が移動してくるため、比較的早く回復する場合もある。

一時的な減少と長期的な減少を区別するには、複数年にわたる継続的な調査が必要である。

キツネとの関係

コサックギツネはキツネ属に分類され、アカギツネ、ケープギツネ、フェネック、ベンガルギツネなどと同じ「真のキツネ」の仲間である。

草原と半砂漠での生活に適応し、次のような特徴を持つ。

  • 背景に溶け込む淡い体毛
  • 小動物の音を捉える大きな耳
  • 厳しい冬に耐える厚い冬毛
  • 乾燥に対応した水分利用
  • 獲物に合わせて移動する遊動性
  • 家族を中心とした比較的高い社会性

同じ乾燥地のキツネでも、フェネックのような高温の砂漠に特化した種ではない。コサックギツネの生息地では夏の暑さだけでなく、冬の厳しい寒さへの対応も必要となる。

保全状況

IUCNレッドリストでは低危険種に分類されている。中央アジアに広い分布域を持ち、条件が整えば個体数を回復できるため、種全体として直ちに絶滅する危険性は低い。

一方、多くの地域では正確な個体数や増減傾向が分かっていない。地域的には狩猟、農地化、草原の劣化、厳冬などによって大幅に減少することがある。

主な脅威は次のとおりである。

  • 毛皮目的の過剰な捕獲
  • 草原の農地化
  • 過放牧による環境の劣化
  • 草原火災
  • 干ばつ
  • 深い積雪と厳冬
  • ネズミ類の減少
  • 毒餌やわなによる死亡
  • 狂犬病などの感染症

保全には、国境を越えた分布調査、毛皮取引と狩猟数の管理、草原環境の維持、長期的な個体数の監視が重要である。

参考リンク

・Animal Diversity Web「Vulpes corsac」

https://animaldiversity.org/accounts/Vulpes_corsac/

・IUCN SSC Canid Specialist Group「Corsac」

https://www.canids.org/species/view/PREKFX223191

・Mammalian Species「Vulpes corsac」

参考リンク

https://academic.oup.com/mspecies/article/41/832/1/2600393