ちべっとすなぎつね チベットスナギツネ

チベットスナギツネは、四角く見える顔つきと厚い毛皮を持ち、チベット高原でナキウサギを主な獲物として暮らすキツネである。

概要

チベット高原とその周辺に生息する、イヌ科キツネ属の動物。英語では「Tibetan fox」「Tibetan sand fox」と呼ばれる。

頬の毛が左右に張り出した顔つきが印象的だが、その暮らしも特徴的である。標高の高い開けた草原に生息し、高原の小動物、とくにナキウサギと密接に結びついた生活を送っている。出典:IUCNイヌ科専門家グループ

基本情報

項目

内容

和名

チベットスナギツネ

英名

Tibetan fox、Tibetan sand fox

学名

Vulpes ferrilata

分類

哺乳綱・食肉目・イヌ科・キツネ属

主な分布

中国のチベット高原と周辺、インド北部、ネパールの一部

頭胴長

約63~70cm

尾長

約21~33cm

体重

約4~5.5kg

主な生息環境

高地の草原、ステップ、半砂漠

食性

主に肉食性。ナキウサギなどの小型哺乳類を捕食する

保全状況

LC(低懸念)

体格の数値は文献に示された目安であり、地域や個体によって差がある。分類:Mammal Diversity Database/体格:Clarkほか(2008)

外見

四角く見える顔つき

頬から首の周囲にかけて毛が豊かに生え、正面から見ると顔の輪郭が四角く見える。細く見える目と相まって、独特の表情をつくっている。

ただし、顔の外見とは対照的に、頭骨や鼻先は細長い。四角い顔という印象を、そのまま骨格の形と考えないことが大切である。

灰色と赤褐色の毛並み

頭頂部や首、背中には黄褐色から赤褐色が入り、頬や体の側面、尻は灰色を帯びる。腹側は白く、ふさふさした尾の先端も白い。

耳は比較的小さく、全体に脚が短めで、ずんぐりした姿に見える。厚い毛皮は、寒冷な高地で暮らすための特徴である。出典:Clarkほか(2008)

分布と生息環境

中国のチベット自治区を中心に、青海省、四川省などの高原地域に分布する。中国国外では、インドのラダック地方や、ネパールのムスタン地方などにも生息する。

標高約2,500~5,200mで記録され、生息地の多くは標高3,000m以上、とくに4,000mを超える高地にある。樹木の少ない草原や半砂漠、見通しのよい丘陵などを利用する。

名前に「スナギツネ」とあるが、砂丘だけに暮らす動物ではない。冷涼で乾燥した高原の草地が、重要な生活の場となっている。出典:IUCNイヌ科専門家グループ

食べ物と狩り

ナキウサギに支えられた食生活

主要な獲物は、チベット高原に暮らすクチグロナキウサギ(Ochotona curzoniae)である。ほかの小型哺乳類や動物の死骸も食べるが、ナキウサギへの依存度が高い。

中国・青海省で行われた研究では、調べたチベットスナギツネの糞の約99%からナキウサギのDNAが検出された。また、ナキウサギがいない場所では、キツネの生息確率も極めて低かった。

これは調査地域で得られた結果であり、全分布域の食事を一律に示す数字ではない。それでも、ナキウサギが単なる好物ではなく、生息を支える重要な獲物であることがうかがえる。出典:Harrisほか(2014)

ヒグマの近くで獲物を狙う

ヒグマがナキウサギの巣穴を掘っているとき、その近くをチベットスナギツネがついて歩く行動が報告されている。

キツネは、クマに掘り出されて逃げるナキウサギを捕らえる機会を狙っていると考えられる。互いに役割を決めて協力するというより、クマの採食行動をキツネが利用している例である。出典:Harrisほか(2008)

行動と子育て

夜明けや夕暮れに活発になるほか、日中にも活動する。休息には巣穴や地面のくぼみ、岩の隙間などを利用する。出典:IUCNイヌ科専門家グループ

つがいで子育てを行い、雄が子どものためにナキウサギを捕らえたり、雌がいない間に子どもと過ごしたりする姿も観察されている。

妊娠期間は約50~60日、一度に生まれる子は2~5頭とする資料がある。ただし、繁殖時期などには未解明な点が残る。出典:Animal Diversity Web

古い資料では春の出産とされる一方、青海省の野外研究では2月上旬にすでに子どもが確認され、研究者は1月下旬ごろの出産を推定している。このため、繁殖の暦を全地域で同じものとして断定することは難しい。出典:Harrisほか(2008)

人間との関わりと保全

IUCNの評価はLC(低懸念)である。ただし、個体数の増減傾向は不明とされており、増加や安定が確認されているという意味ではない。

保全上の懸念の一つが、主要な獲物であるナキウサギの毒餌による駆除である。獲物の大幅な減少は、チベットスナギツネの生活にも影響する。また、地域によっては犬による捕殺も問題となる。出典:IUCNイヌ科専門家グループ

チベットスナギツネを守るうえでは、キツネ自身だけでなく、餌となる小動物を含めた高原の生態系を考える必要がある。