きつねめん いぶつのはいじょ/おぶくろ 狐面 異物の排除/OBKR
「狐面 異物の排除」は、日本のアーティスト・OBKRによるインストゥルメンタル楽曲である。2019年公開の劇場アニメーション映画『HELLO WORLD』の劇伴として制作され、『HELLO WORLD(オリジナル・サウンドトラック)』に29曲目として収録されている。楽曲時間は1分10秒である。 タイトルにある「狐面」とは、映画『HELLO WORLD』に登場する狐の面を着けた異形の存在を指す。本作は、その狐面たちが世界に生じた「異物」を排除しようとする場面に対応した劇伴である。 作中の狐面は単なる和風デザインの敵ではなく、物語の根幹に関わるシステムの働きを視覚化した存在である。そして物語終盤では、複数の狐面がさらに巨大な「九尾狐」を思わせる姿へと変化するため、『HELLO WORLD』では狐面から九尾の狐へ連なる一連の狐モチーフが採用されている。
基本情報
タイトル:狐面 異物の排除
アーティスト:OBKR
収録作品:HELLO WORLD(オリジナル・サウンドトラック)
収録順:29曲目
楽曲時間:1分10秒
作品公開年:2019年
映画:HELLO WORLD
音楽プロジェクト:2027Sound
発売元:Sony Music Labels
国:日本
サウンドトラックのCDは2019年9月18日に発売された。Sony Music公式では品番BVCL-979として掲載され、OBKR、Yaffle、STUTS、BRIAN SHINSEKAIらが「2027Sound」として参加している。
なお、一部のデジタル配信サービスではアルバムの日付が2019年9月4日と表示されている。CD発売日は9月18日であるため、媒体によって表示されるリリース日が異なる点には注意が必要である。
楽曲について
「狐面 異物の排除」は歌詞を持つ一般的な歌ものではなく、映画の一場面を支える短い劇伴である。
そのため楽曲単体に独立した狐の物語が存在するというより、『HELLO WORLD』の中で「狐面」が登場し、異常と判断されたものを排除しようとする場面と結び付いて意味を持つ。
アルバムの曲順でも、
- 一縷の望み
- 瑠璃を取り戻したい
- 狐面 異物の排除
- 瑠璃を守る
- 急げ!大階段へ!
- ナオミ、瑠璃との別れ
- 直実とナオミのバディ
- 九尾狐
と物語終盤の劇伴が連続している。
特に29曲目の「狐面 異物の排除」と34曲目の「九尾狐」が同じOBKRによる楽曲である点は、本作における狐モチーフを知るうえで重要である。
映画『HELLO WORLD』
『HELLO WORLD』は、2019年9月20日に公開されたオリジナル劇場アニメーションである。監督は伊藤智彦、脚本は野﨑まど、キャラクターデザインは堀口悠紀子が担当している。北村匠海、松坂桃李、浜辺美波らが声優として出演した。
物語の舞台は京都。
主人公・堅書直実の前へ、未来から来た自分自身を名乗る男が現れる。二人は一行瑠璃という少女を救うため、現実と記録された世界をまたぐ大きな事件へ巻き込まれていくSF作品である。
その物語の中で、世界に生じた異常へ対処する存在として登場するのが「狐面」である。
キツネとの関係
本作とキツネとの関係は、映画に登場する「狐面」というキャラクター/存在にある。
狐面たちは、文字通り狐の顔を模した面を着けた異形の姿として表現されている。
さらに映画公式サイトでは「狐面 お面 A/B」が実際のグッズとして商品化されており、狐面が作品を象徴する特徴的なデザインの一つだったことも確認できる。
したがって「狐面 異物の排除」は、狐という動物そのものを描いた自然系楽曲ではない。
映画内で狐を視覚的モチーフとする存在へ付けられた劇伴タイトルであり、
狐面
狐を思わせる異形
九尾狐
という『HELLO WORLD』独自の狐表現へつながっている。
狐面とは
狐面とは、狐の顔をかたどった日本の仮面である。
尖った耳、細長い目、細い鼻先など、狐の顔を抽象化した造形を持つものが多く、祭礼や芸能、現代の創作作品など幅広い場所で使用されている。
狐は日本文化において、
人間へ化ける
人を惑わせる
神秘的な存在
人間とは異なる世界と結び付く存在
として語られてきた。
そのため狐面も、正体を隠した人物や、人間ではないもの、異界と関係する存在を表現する視覚記号として現代の創作で多用されている。
『HELLO WORLD』でも、狐面を被せることで、登場する存在が普通の人間ではないことを一目で分かるデザインにしている。
ただし、映画の狐面が特定の神社祭礼や妖狐伝承を直接モデルにしているとする公式説明は、確認できた資料からは見つからない。
「異物の排除」
タイトル後半の「異物の排除」は、映画における狐面の役割をそのまま表した言葉である。
『HELLO WORLD』に登場する狐面は、仮想的な記録世界「アルタラ」における自動修復システムとして、世界内部で発生した異常や外部から侵入した存在を排除しようとする。
つまり彼らは、善悪の感情によって主人公を襲っている一般的な妖怪ではない。
システムにとって正常ではないものを、
「異物」
と判断し、それを取り除こうとしているのである。
そのため曲名は、
「狐面」という存在
+
「異物を排除する」という機能
をそのまま組み合わせた非常に説明的なタイトルとなっている。
妖怪ではなく「システム」としての狐
『HELLO WORLD』における狐表現で特徴的なのが、狐を古典的な妖怪そのものとして登場させていないことである。
見た目は狐面を着けた異形であり、日本の怪異を思わせる。
しかし、その正体はデジタルな世界を維持するための仕組みである。
つまり、
外見=日本的な狐・妖怪
役割=コンピューターシステム
という組み合わせになっている。
日本で古くから「人間とは異なる世界」と結び付けられてきた狐を、SF作品におけるデジタル世界の守護・修復機構へ転換した表現と見ることができる。
「直実 vs 狐面」
狐面は「狐面 異物の排除」だけに登場するモチーフではない。
同じサウンドトラックの23曲目には「直実 vs 狐面」という楽曲が収録されている。こちらはFirst PartをOBKR、STUTS、ハマ・オカモト、Second Partをオカモトショウ、オカモトコウキが担当している。
このタイトルからも、狐面が主人公・直実と直接対立する重要な存在であることが分かる。
サウンドトラックでは、
「直実 vs 狐面」
から、
「狐面 異物の排除」
へと、狐面に関係する複数の劇伴が用意されている。
狐面が単発の背景キャラクターではなく、映画のアクションや物語展開を支える重要な存在であることが音楽面からも確認できる。
「九尾狐」への発展
さらに重要なのが、同じサウンドトラック34曲目に「九尾狐」というOBKRの楽曲が収録されていることである。
映画のクライマックスでは、狐面たちが集まり、さらに巨大で異形の存在へ変化する。
小説版などでは九本の尾を持つ狐のような姿として描写され、サウンドトラックおよび公式ビジュアルガイドでも「九尾狐」「九尾の狐」という名称が使われている。
したがって『HELLO WORLD』では、
狐面
↓
複数の狐面
↓
巨大化・合体
↓
九尾狐
という狐モチーフの発展を見ることができる。
「狐面 異物の排除」は、その途中に位置する楽曲である。
九尾の狐との関係
九尾の狐は、中国をはじめとする東アジアの伝承に登場する九本の尾を持つ霊狐・妖狐で、日本でも玉藻前伝説などを通じて広く知られている。
『HELLO WORLD』では、玉藻前や殺生石といった古典伝説をそのまま描くわけではない。
九尾の狐という視覚的・文化的イメージを、仮想世界の修復システムが変貌した巨大な異形へ取り入れている。
つまり、
古典的な九尾の狐=強大な妖狐
を、
『HELLO WORLD』の九尾狐=デジタル世界が生み出した巨大な排除システム
へ置き換えている。
狐伝承をSF的に再解釈した例としても興味深い。
京都と狐
『HELLO WORLD』の舞台が京都であることも、狐というモチーフと相性がよい。
作中には伏見稲荷大社も登場し、主人公・直実が三本足のカラスを追う場面などで描かれる。
京都の伏見稲荷大社は、狐像が多数置かれていることでも有名な場所である。
ただし、『HELLO WORLD』の狐面が伏見稲荷の狐を直接モデルとしてデザインされたとする公式説明は確認できない。
そのため、
「京都・伏見稲荷が登場する作品だから狐面になった」
と制作意図まで断定することはできない。
一方で、京都を舞台とするSF世界の中へ狐面や九尾狐を登場させることで、日本的な怪異と未来的なデジタル世界を共存させている点は、この作品の特徴の一つである。
インストゥルメンタル楽曲
「狐面 異物の排除」は1分10秒の短い劇伴であり、歌詞を持つ一般的な歌ものではない。
そのため、
狐の性格
狐の心情
狐の伝説
などを歌詞から読み解く作品ではない。
楽曲の意味は映画の映像と強く結び付いている。
タイトルと使用場面によって「狐面による異物排除」という状況を補強する、映像作品のための音楽である。
『HELLO WORLD』の音楽と2027Sound
『HELLO WORLD』の音楽は「2027Sound」というプロジェクト名義で制作された。
映画公式サイトでは、音楽担当としてOKAMOTO'S、Official髭男dism、Nulbarich、OBKR、Yaffle、STUTS、BRIAN SHINSEKAIが掲載されている。
Sony Musicは、OKAMOTO'Sをハブとして同世代のミュージシャンたちが集まり、ジャンルを越えてサウンドトラックを制作した企画と説明している。
全38曲の中で担当者が場面ごとに変化しており、OBKRは狐面に関係する複数の楽曲を手掛けている。
OBKRによる狐関連劇伴
OBKRは『HELLO WORLD』のサウンドトラックにおいて、「狐面 異物の排除」だけでなく、「直実 vs 狐面」のFirst Partにも参加し、さらに「九尾狐」も担当している。
そのためOBKRは、映画内の狐モチーフと特に強く結び付いた作曲担当の一人といえる。
楽曲タイトルを並べると、
「直実 vs 狐面」
「狐面 異物の排除」
「九尾狐」
となり、物語の進行に従って狐面との対決から排除行動、そして九尾狐へとスケールアップしていく構成になっている。
「狐面 異物の排除」は、その一連の狐関連劇伴を構成する一曲である。
OBKRについて
OBKRは、日本のシンガーソングライター、プロデューサーである。1991年生まれで、N.O.R.K.での活動や音楽レーベルTokyo Recordingsの設立、他アーティストのプロデュースなどを経てソロ活動も行った。
『HELLO WORLD』では2027Soundの一員として劇伴制作に参加し、Apple MusicのOBKR名義の代表曲にも「狐面 異物の排除」と「九尾狐」が掲載されている。
「狐面 異物の排除」は動物としてのキツネや古典的な妖狐を直接描いた楽曲ではない。しかし、日本文化の狐面をデジタル世界の異物排除システムへ転換し、最終的には九尾狐へと発展させる『HELLO WORLD』独自の狐表現を支える劇伴である。
狐面という伝統的・怪異的なモチーフと、仮想世界・自動修復というSF的な概念を融合した、現代的な狐関連音楽として位置付けられる。