へんぼう-きつね-あんちさぁかす/ぷく 変貌-狐-アンチサァカス/ぷく
「変貌-狐-アンチサァカス」は、日本のボカロP・ぷくによるVOCALOID楽曲である。歌唱には鏡音リンが使用され、2021年1月に発表された。ぷく本人は公式YouTubeで、本作を「デキソコナイ」に続く「和風デジタル第二作」と説明している。 作詞・作曲はいずれもぷくが担当。piaproでは2021年1月24日に公式歌詞が公開され、JOYSOUNDでも「ぷく」名義、作詞・作曲ともにぷく、関連ボーカルに鏡音リンとして登録されている。 本作で描かれる「狐」は、野生動物としてのキツネではない。匿名の陰に隠れ、本性を見せず、他人を褒めたり貶したり、偽善・偽悪を使い分けたりする人間を「狐」になぞらえている。歌詞には「九つ持つ狐」を思わせる表現、尾を隠すイメージ、「コンコン」を変形した掛け声、仮面、変幻、虚像など、妖狐や九尾の狐を連想させる要素が多数盛り込まれている。 題名の「アンチサァカス」が示すように、主題となっているのはインターネット上の匿名性、誹謗中傷、炎上、偽善、偽悪といった人間の二面性である。その姿を「正体を変え、尾を隠す狐」と重ねた、社会風刺色の強い狐関連ボーカロイド楽曲である。
基本情報
タイトル:変貌-狐-アンチサァカス
アーティスト:ぷく
歌唱:鏡音リン
作詞:ぷく
作曲:ぷく
発表時期:2021年1月
piapro歌詞公開日:2021年1月24日
楽曲時間:約3分15秒
ジャンル:VOCALOID/和風デジタル
国:日本
ぷく自身はYouTubeの投稿説明で、「デキソコナイ」に続く「和風デジタル第二作」と位置付けている。
また、JOYSOUNDでは通常配信に加えて本人映像版も配信されており、ぷくの代表的な配信楽曲の一つとして扱われている。
楽曲について
「変貌-狐-アンチサァカス」が描くのは、人間が持つ表と裏の顔である。
歌詞では、他人の本音や本性を探りながら、本人は顔を見せずに好き勝手なことを言う人物たちが描かれる。そこには、
他人を褒める者
他人を貶す者
何かを言いたがる者
偽善を振りかざす者
わざと悪ぶる者
など、さまざまな「狐」が現れる。
彼らに共通するのは、自分自身の「真」がどこにあるのか分からなくなっていることである。
本当の自分。
他人に見せる自分。
匿名の自分。
SNS上の自分。
それらが次々と姿を変え、何が本物なのか分からなくなっていく。
「変貌」という題名は、そうした人間の変化する顔を表す言葉として機能している。
キツネとの関係
本作における狐との関係は非常に強い。
歌詞には直接、
褒め合う狐
言いたがり狐
悪口を言う狐
偽善の狐
偽悪の狐
といった複数種類の狐が登場する。
ただし、これらは動物のキツネではない。
匿名社会の中で異なる顔を使い分ける人間を、狐へ置き換えた比喩である。
さらに歌詞には、
九つの尾を持つ狐を思わせる表現
尾を隠す
仮面
変幻
変貌
虚像
「こんここん」という掛け声
などが盛り込まれている。
そのため本作は、単なる「ずる賢い人=狐」という一語の比喩ではなく、妖狐・九尾狐・変化といった狐文化を、人間の匿名性や二面性を描くためのモチーフとして広く利用している。
「九つ持つ狐」
狐関連表現として特に重要なのが、「九つ持つ狐」を思わせる一節である。
九本の尾を持つ狐といえば、「九尾の狐」である。
九尾の狐は中国をはじめとする東アジアの伝承に登場し、日本でも玉藻前伝説などによって広く知られている。
本作では玉藻前の物語そのものを歌っているわけではない。
しかし、
九つ
狐
尾
変幻
変貌
という語が一緒に用いられているため、九尾の妖狐が姿を変えるイメージが明確に連想される。
その狐像が、人間の「いくつもの顔」を象徴する存在へ変換されている。
九本の尾と「いくつもの顔」
九尾の狐は、一本の尾しか持たない普通の狐とは異なる異形の存在である。
本作では、その「九つ」という多さが、人間の持つ複数の顔とも重なる。
一人の人物でも、
家族の前
友人の前
職場や学校
SNS
匿名掲示板
では異なる態度を見せることがある。
本作では、そうした次々と変わる顔を「狐の変貌」として描いていると読むことができる。
ただし、作者自身が「九本の尾=九種類の人格」といった具体的な対応関係を説明した資料は確認できないため、そこまで固定的に解釈する必要はない。
「尾を隠す」
歌詞には、狐が自分の尾を隠すような表現も登場する。
日本語には「尻尾を出す」という慣用表現がある。
隠していた悪事や本性が露見することを意味し、狐や狸が人間へ化けていても最後には尻尾を隠しきれず正体がばれる、という昔話的イメージとも親和性がある。
本作では逆に、
「尾を隠す」
側が描かれる。
つまり、自分の正体や本心を見破られないようにする。
匿名の人物が顔を隠し、本音を隠し、別の人格を装う姿と、狐が尾を隠して人間へ化ける姿が重ねられている。
変化する狐
日本の狐伝承で最も有名な能力の一つが「変化」である。
狐は、
女性
男性
老人
子供
など、さまざまな人間の姿へ変わる存在として語られてきた。
「変貌-狐-アンチサァカス」でも、「変幻」「変貌」という言葉が重要な位置を占めている。
そのため本作における狐は、
「狡猾だから狐」
というだけではない。
「姿を変えるから狐」
でもある。
人間の人格や言動が場所によって変化することを、妖狐の変化能力へ重ねた作品と見ることができる。
「コンコン」の変形
歌詞では、狐を表す掛け声として「こんここん」「こんここっこん」といった独特な言葉が繰り返される。
これは日本で狐の鳴き声として定着している「コンコン」を崩した表現である。
日本では童謡や昔話などを通して、
狐=コンコン
というイメージが広く浸透している。
本作ではそれをそのまま使用するのではなく、リズミカルに変形させている。
歌詞の社会批判的で攻撃性のある内容に対し、「こんここん」という響きにはどこか軽さや戯画的な雰囲気がある。
そのギャップによって、匿名で他者を攻撃する人々を滑稽な「狐の群れ」として見せているとも捉えられる。
褒め合う狐
本作では、他人を攻撃する狐だけではなく「褒め合う狐」も登場する。
ここが興味深い点である。
一般的な社会批判ソングであれば、
悪口
誹謗中傷
罵倒
だけを批判すれば成立する。
しかし本作では、褒める行為まで狐として描かれる。
つまり問題にされているのは「良いことを言うか、悪いことを言うか」だけではない。
本心ではない言葉。
周囲へ合わせるための言葉。
自分の立場を守るための言葉。
そうした「真意の見えない言葉」そのものがテーマになっている。
偽善の狐・偽悪の狐
さらに本作では「偽善」と「偽悪」の双方が狐として描かれる。
偽善とは、善人であるように振る舞いながら、本心や動機が異なる状態。
偽悪は、その逆に本当はそうではないのに、あえて悪人のように振る舞うことである。
どちらも、
本当の自分
と
外へ見せる自分
が一致していない。
この二面性が、姿を変える狐と重ねられている。
つまり本作が問いかけているのは、「善か悪か」よりも、
「お前の本当の顔はどこにあるのか」
という問題である。
仮面
歌詞では「仮面」も重要なモチーフになっている。
仮面を被れば、本当の顔は見えなくなる。
これはSNSやインターネット上の匿名アカウントとも相性のよい比喩である。
名前を隠す。
顔を隠す。
本来の人格を隠す。
そして別の人格として発言する。
狐が人間へ化ける「変化」と、匿名ユーザーが別人格を演じる「仮面」が重なっている。
タイトルの「変貌」ともつながる重要なモチーフである。
匿名社会
本作の社会的テーマとして特に強く描かれるのが「匿名」である。
歌詞には匿名性、炎上、言葉の暴力、誹謗中傷など、インターネット社会を強く思わせる言葉が登場する。
顔を出さないから何でも言える。
相手から反撃されにくい。
自分の本名や現実の立場とは切り離された人格で行動できる。
そうした匿名性が、人間を普段とは違う姿へ「変貌」させる。
本作では、その匿名ユーザーの姿を「狐」として描いている。
炎上
歌詞には「炎上」も明確に登場する。
インターネット上でいう炎上とは、多数の批判や攻撃的な投稿が集中する状態を指す。
本作ではその炎上が、
匿名
言葉の暴力
誹謗中傷
と並べられている。
したがって、狐たちは森の中で火を灯す妖狐ではない。
ネット上で言葉によって「火」を起こす人間である。
なお、狐文化には「狐火」という怪異も存在するが、本作の「炎上」を狐火と直接結び付けた作者の説明は確認できないため、両者を同一視することはできない。
誹謗中傷
楽曲後半では、主題がさらに明確になり、誹謗中傷そのものが取り上げられる。
他者を傷つける言葉を匿名で投げる。
それを娯楽として繰り返す。
本作では、そうした行動を厳しく批判する。
タイトルの「アンチ」も、単に「何かが嫌い」という意味だけではなく、ネット上で特定の人物や作品を攻撃する「アンチ」の文化を想起させる。
狐は、そうした人々の仮面として使われているのである。
「アンチサァカス」
タイトル後半の「アンチサァカス」は特徴的な造語的表現である。
歌詞の終盤でも「アンチサァカス」が登場し、匿名で他者を攻撃する人々の姿が、まるで滑稽な見世物のように描かれる。
「サァカス」は「サーカス」を古風・装飾的に表記したものと考えられる。
そこへ「アンチ」を組み合わせることで、
アンチたちが騒ぐ世界
匿名で他者を攻撃する見世物
醜い騒動
といったイメージを生み出している。
ただし、「アンチサァカス」という言葉の厳密な命名意図について、ぷく本人による詳細な解説は今回確認できなかった。
タイトル「変貌-狐-アンチサァカス」
題名は三つの要素に分けることができる。
「変貌」
「狐」
「アンチサァカス」
である。
変貌=姿や人格が変わること。
狐=変化し、本心を隠す存在の象徴。
アンチサァカス=匿名で他者を攻撃する人々の騒動。
この三要素が、歌詞内容と密接につながっている。
特に「狐」は中央に置かれている。
つまり、
人間が変貌する
↓
狐のように正体を隠す
↓
アンチ活動という騒動へ参加する
という楽曲の構造を、そのまま一つのタイトルへ凝縮したような形になっている。
狐面との違い
歌詞には「仮面」が登場するため、狐面を想像することもできる。
しかし、公式歌詞では「狐面」という言葉そのものは使用されていない。
そのため、
狐面を被った人物の物語
と断定することはできない。
ここでの「仮面」は基本的に、人間が本性を隠していることを示す比喩として読むのが適切である。
ただし、
狐
仮面
変幻
正体を隠す
という組み合わせは、現代創作でよく使われる狐面のイメージとも非常に親和性が高い。
妖狐そのものを描く作品ではない
本作には九尾や変幻を思わせる表現があるため、妖狐を題材とした曲にも見える。
しかし物語の中心は妖狐ではない。
狐は、人間の姿を説明するための象徴である。
したがって、
九尾の狐が主人公
玉藻前の物語
妖狐の戦い
狐の嫁入り
などを描いた作品ではない。
「妖狐の持つ変化・尾・狡猾さ・正体を隠すイメージを、匿名社会の人間へ置き換えた作品」とするのが最も近い。
鏡音リン
本作の歌唱には鏡音リンが使用されている。
ぷく本人の公式YouTubeタイトルでも「ぷくfeat.鏡音リン」と明記され、JOYSOUNDでも関連情報として鏡音リンが登録されている。
piaproで公開された歌詞にも「鏡音リン」のタグが付けられている。
攻撃的な言葉とテンポの速い言葉遊びを鏡音リンの声で歌わせることで、和風・デジタル・VOCALOIDという複数の要素を組み合わせた作品となっている。
「和風デジタル」第二作
ぷく本人は本作を「和風デジタル第二作」と紹介している。
第一作に当たるのは「デキソコナイ」である。
そのため「変貌-狐-アンチサァカス」は、単発で和風要素を取り入れた曲ではなく、ぷくが展開していた「和風デジタル」という作品方向性の第二弾として制作された。
狐、九尾、変幻などの和風・妖怪的な言葉と、匿名、炎上、誹謗中傷といった現代インターネット社会の言葉を同じ曲の中へ置くことで、
古典的な狐像
と
現代的なネット社会
を融合している。
piaproでの公開
ぷくは2021年1月24日にpiaproへ本作の歌詞を投稿している。
そこでは、
タイトル:変貌-狐-アンチサァカス
作詞:ぷく
作曲:ぷく
鏡音リン
オリジナル
という情報が確認できる。
また、前日の2021年1月23日にはカラオケ音源が公開されており、原曲キーと上下3キーの音源が用意されている。カラオケ版の長さは3分15秒である。
そのため本作は、2021年1月下旬に発表されたVOCALOID作品として整理できる。
JOYSOUNDでのカラオケ配信
「変貌-狐-アンチサァカス」はJOYSOUNDでもカラオケ配信されている。
JOYSOUND公式では、
歌手:ぷく
作詞:ぷく
作曲:ぷく
関連情報:鏡音リン
と登録されている。
さらに通常版だけでなく「本人映像」版も配信されている。
ボーカロイド楽曲としてネット上で公開された後、カラオケでも歌える作品へ展開された。
『musicるTV』での紹介
本作は、テレビ朝日系の音楽番組『musicるTV』でぷくが取り上げられた際にも紹介されたことが確認できる。関連映像では、「ネット発 話題のアーティスト/ボカロP」としてぷくが紹介され、本作の名称も掲げられている。
そのため「変貌-狐-アンチサァカス」は、ぷくの作品の中でも活動を紹介する際に使われた楽曲の一つである。
2025年の配信版
Apple Musicでは、2025年6月24日付で『変貌-狐-アンチサァカス - Single』も登録されている。ジャンルはロックとして掲載されている。
ただし、本曲そのものは2021年1月の時点ですでにYouTubeやpiaproなどで公開されているため、2025年を作品の初出年とするのは適切ではない。
したがって記事上では、
2021年:VOCALOID楽曲として発表
2025年:Apple Music等で改めて配信
と分けて扱うのがよい。
ぷくについて
ぷくは、日本のボカロP・音楽クリエイターである。
JOYSOUNDでは「大日本帝國」「デキソコナイ」「変貌-狐-アンチサァカス」などが人気曲として掲載されているほか、「閃光ラビット」「画竜点睛」などの楽曲も配信されている。
「変貌-狐-アンチサァカス」では、作詞・作曲を自身で担当し、鏡音リンをボーカルに用いて「和風デジタル」という独自の方向性を展開した。
狐関連楽曲としての位置付け
「変貌-狐-アンチサァカス」は、実在のキツネを描く楽曲ではない。
しかし狐との関係は非常に深い。
タイトルに「狐」。
歌詞中には複数種類の「狐」。
狐の鳴き声を思わせる「こんここん」。
九尾を連想させる九つの尾。
尾を隠す狐。
変幻・変貌。
仮面。
そして正体を隠した匿名の人間。
これらが一つのテーマとして結び付けられている。
日本の狐伝承では、狐は人間へ化け、本当の姿を隠す存在として長く語られてきた。
本作はその「化ける狐」を現代のインターネット社会へ置き換える。
狐が女性へ化けるのではない。
人間が匿名アカウントへ化ける。
狐が尻尾を隠すのではない。
人間が本名や顔、本心を隠す。
そして複数の人格を使い分け、言葉によって他者を攻撃する。
古典的な妖狐の「変化」と、現代社会における「匿名人格の変貌」を重ね合わせた、狐を社会風刺の象徴として用いたVOCALOID楽曲である。