おぐろすなぎつね オグロスナギツネ
食肉目イヌ科キツネ属に分類される小型のキツネである。西アジアから中央・南アジアにかけて分布する。
概要
オグロスナギツネは、食肉目イヌ科キツネ属に分類される小型のキツネである。西アジアから中央・南アジアにかけて分布し、乾燥した山地、岩山、崖、峡谷などを主な生活場所とする。
英名から「ブランフォードギツネ」、分布地域から「アフガンギツネ」とも呼ばれる。砂地を走ることに適応した一般的なスナギツネ類とは異なり、鋭く湾曲した爪と長い尾を使って岩場を巧みに移動することが大きな特徴である。
基本情報
- 分類:哺乳綱・食肉目・イヌ科・キツネ属
- 学名:Vulpes cana
- 英名:Blanford’s fox
- 別名:ブランフォードギツネ、アフガンギツネ
- 頭胴長:平均約42.6センチメートル
- 尾長:平均約32.3センチメートル
- 全長:約70~90センチメートル
- 体重:約1.5~3キログラム
- 分布:西アジア、中央アジア、南アジアの一部
- 生息環境:乾燥・半乾燥地域の岩山、崖、峡谷、山地など
- 食性:雑食
- 活動時間:主に夜間
- IUCNレッドリスト:低懸念(LC)
- ワシントン条約:附属書II
名前の由来
英名のBlanford’s foxは、イギリスの地質学者・動物学者であるウィリアム・トーマス・ブランフォードに由来する。ブランフォードは1877年にこのキツネを記載した。
和名の「オグロ」は、尾の先端が通常は黒いことに由来すると考えられる。ただし、すべての個体が黒い尾先を持つわけではなく、地域や個体によっては白い場合もある。
「スナギツネ」と付いているが、広い砂漠の砂丘を主な生息地とするキツネではない。岩の多い乾燥した山地を好み、英語ではcliff foxと呼ばれることもある。
外見
体は小柄で細く、吻と四肢も細長い。耳は大きく、長くふさふさした尾を持つ。尾は頭胴長に近い長さとなることがあり、小さな体に対して非常に大きく見える。
体毛は褐色、灰褐色、黒色などが混ざった色合いで、背中は暗く、体側と腹部は淡い。背中には首から尾へ続く黒い筋が見られることがあり、尾の上側にも暗色の毛が伸びる。冬毛は柔らかく厚いが、夏毛は薄く、全体的に淡い色となる。
大きな耳は周囲の音を捉えるだけでなく、体内の熱を逃がすことにも役立つ。雄と雌の外見上の違いは小さいが、雄のほうが体や前脚がわずかに長い傾向がある。Animal Diversity Web
分布
イスラエル、ヨルダン、エジプトのシナイ半島、サウジアラビア、オマーン、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタンなどで生息が確認されている。タジキスタンなどにも分布する可能性がある。
分布域は一続きではなく、生息に適した岩山や峡谷を中心として点在している。かつてはアジア南西部の限られた地域にしか生息しないと考えられていたが、調査が進むにつれてアラビア半島などにも広く分布していることが判明した。
生息環境
乾燥または半乾燥した山地、急斜面、岩山、崖、峡谷などを好む。標高約2,000メートルまでの地域で確認されている。
特に、雨季にだけ水が流れる涸れ川や、岩が積み重なった場所が重要な生息環境となる。巣穴は岩の隙間、洞窟、崖にできた穴などに作られ、休息や出産、子育てに利用される。
果樹園や畑の周辺へ現れることもあり、イスラエルでは死海周辺の農耕地でも確認されている。しかし、平らで開けた砂漠よりも、身を隠したり移動したりできる複雑な岩場を好む。
岩場への適応
オグロスナギツネは、キツネの仲間でも特に岩登りを得意とする。足の裏には毛が少なく、鋭く湾曲した爪を持つ。この爪と足裏を岩へ掛けることで、急な斜面や狭い足場を移動できる。
一般的な砂漠のキツネでは、熱い砂から足を守るため肉球が毛で覆われていることがある。一方、オグロスナギツネの足裏は毛に覆われておらず、岩肌をしっかり捉えられる構造となっている。
跳躍力にも優れ、岩から岩へ飛び移ったり、切り立った崖を段階的に登ったりする。長くふさふさした尾は、ジャンプや岩登りの際に体のバランスを保つ役割を果たす。Animal Diversity Web
食性
雑食性であり、主に昆虫と果実を食べる。昆虫では甲虫、バッタ、コオロギ、アリ、シロアリなどを捕食する。小型哺乳類などの脊椎動物を食べることもあるが、食事に占める割合は比較的少ない。
植物質ではフウチョウボクの仲間、ナツメヤシなどの果実やイネ科植物を食べる。パキスタンではグミの仲間、メロン、ブドウなどを利用することも確認されている。
食物に含まれる水分から必要な水の多くを得られるため、直接水を飲む機会は少ないと考えられている。乾燥地に暮らすうえで重要な適応である。
つがいで暮らしていても採食は単独で行うことが多い。また、余った食物を地中などへ隠す貯食行動は、ほかのキツネと比べてあまり行わない。Animal Diversity Web
生態
主に夜間に活動し、日没後に巣を出て、夜を通して食物を探す。夜行性であることは、昼間の高温を避けるとともに、猛禽類などの外敵に見つかりにくくするための適応と考えられている。
基本的には単独で採食するが、繁殖した雄と雌はつがいとなり、それぞれの行動圏を大きく重ねながら生活する。隣接する別のつがいとは行動圏の重なりが少なく、一定の縄張りを維持する。
視覚、聴覚、嗅覚に優れ、鳴き声やにおいを使って仲間と情報を伝える。岩場を素早く移動する能力を利用し、敵から逃れたり食物を探したりする。
繁殖
基本的には一夫一妻であり、同じつがいが縄張りを共有する。交尾期はおおむね12月から2月で、約50~60日の妊娠期間を経て、春頃に1~3頭の子どもを産む。
子どもは巣の中で生まれ、約30~45日間母乳を飲む。生後2か月ほどになると親と一緒に食物を探し始め、生後3か月頃には自力で採食できるようになる。生まれた年の秋頃まで親の行動圏に残ることがある。
雄が子どもの毛づくろいをする様子も観察されており、縄張りの維持や子どもの保護などを通じて子育てに関わると考えられている。性成熟を迎えるのは生後8~12か月ほどである。
野生での平均寿命は約4~5年とされ、長い場合は10年ほど生きることがある。
人間との関係
昆虫やネズミ類を捕食することで、農作物へ被害を与える小動物の個体数を抑える役割を持つ。また、果実を食べて移動するため、糞を通じて植物の種子を運ぶこともある。
一方で、メロンやブドウなどの栽培作物を食べることがあり、地域によっては農業害獣と見なされる。毛皮を目的とした狩猟や捕獲の対象になる場合もある。
警戒心が比較的弱く、罠や人間を強く恐れない個体もいる。この性質は観察を容易にする一方、人との接触や捕獲による危険を高める要因にもなる。
キツネとの関係
オグロスナギツネは、アカギツネ、フェネック、ベンガルギツネなどと同じキツネ属に含まれる。体重は約1.5~3キログラムと小さく、キツネ属のなかでも特に小型の種である。
乾燥地に暮らすため大きな耳を持つ点ではフェネックやスナギツネと共通している。しかし、砂丘を移動するための毛深い足裏ではなく、岩登りに適した裸出した足裏と湾曲した爪を持つ点が異なる。
長い尾を岩場での平衡維持に使い、昆虫と果実を多く食べるなど、険しい乾燥山地に特化した独自のキツネである。
保全状況
IUCNレッドリストでは「低懸念(LC)」に分類されている。また、国際的な取引を規制するワシントン条約の附属書IIに掲載されている。Animal Diversity Web
調査の進展によって従来考えられていたより広い分布域が判明したものの、各地域の個体数については十分に分かっていない。毛皮を目的とした狩猟、罠、開発による生息地の消失、観光地化、ほかの食肉類を対象に設置された毒餌などが、地域的な脅威となっている。
イスラエルでは保護対象となり、生息地の多くが保護区に含まれている。一方、法的な保護状況は国によって異なるため、岩山や峡谷を含む生息環境の保全と継続的な分布調査が必要である。