きつねののこりが/もりゆうや 狐の残り香/森悠也

「狐の残り香」は、作曲家・森悠也によるアニメ劇伴である。2021年1月から放送されたTVアニメ『怪物事変』のために制作され、2021年3月24日発売の『TVアニメ『怪物事変』オリジナルサウンドトラック』に収録された。Disc 1の15曲目に配置され、楽曲時間は2分15秒である。 歌詞を持たないインストゥルメンタル曲であり、タイトルの「狐」は『怪物事変』に登場する狐の怪物たちと結び付いている。同作では、強大な力を持つ狐の怪物・飯生、その配下である紺や野火丸など、狐に属するキャラクターが物語の重要な勢力として登場する。公式あらすじでも飯生は明確に「狐の怪物」、野火丸は「狐の少年」と説明されている。 さらに作曲者の森悠也は、『怪物事変』の劇伴制作にあたり、怪物の種類ごとに使用する楽器を変えてキャラクター付けを行い、「狐側」には中央・西アジアに伝わる打弦楽器サントゥールを使用したと公式コメントで明かしている。したがって「狐の残り香」は、題名だけでなくサウンド設計そのものにも「狐側」の音楽的特徴が組み込まれた、狐との関係が非常に明確なアニメ劇伴である。

基本情報

タイトル:狐の残り香
作曲:森悠也
アーティスト表記:森悠也
使用作品:TVアニメ『怪物事変』
収録作品:TVアニメ『怪物事変』オリジナルサウンドトラック
発売日:2021年3月24日
収録位置:Disc 1・15曲目
楽曲時間:2分15秒
形態:インストゥルメンタル/アニメ劇伴
品番:LACA-9812~LACA-9813
発売・販売:バンダイナムコアーツ
音楽制作:ランティス
国:日本

サウンドトラックはCD2枚組で、アニメ本編のBGMに加え、オープニングテーマ「ケモノミチ」とエンディングテーマ「-標-」のTVサイズも収録している。

楽曲について

「狐の残り香」は歌詞を持たないため、単独で具体的な物語を語る楽曲ではない。

その意味を理解するには、『怪物事変』における狐の怪物たちと、サウンドトラック内での配置を見ることが重要である。

Disc 1では、

  1. 愛を望んで
  2. 狡猾な女狐
  3. 狐の残り香
  4. Momentary Battle
  5. 妖
  6. 怪物
  7. 狸と狐の化かし合い

という順に楽曲が並んでいる。

わずか6曲ほどの範囲に、

「狡猾な女狐」
「狐の残り香」
「狸と狐の化かし合い」

という三つの狐関連タイトルが集中している。

そのため「狐の残り香」は、アルバムの中でも『怪物事変』における狐勢力を描く一連の劇伴の中に位置付けられていることが分かる。

キツネとの関係

本作におけるキツネは、『怪物事変』世界に存在する「狐の怪物」である。

現実の野生のキツネを自然音楽として描いた作品ではない。

また、九尾の狐や玉藻前など特定の古典伝承を直接音楽化した作品でもない。

『怪物事変』独自の世界で、人間社会の中に潜みながら活動する狐の怪物たちを表現する劇伴である。公式サイトでは飯生を「警察に強大な権力を持つ狐の怪物」と説明している。

さらに作曲者自身が「狐側」という言葉を使い、その勢力を音色によって区別したことを明かしているため、狐との関係は作品設定だけでなく音楽制作上にも存在する。

『怪物事変』における狐

『怪物事変』は、人間に知られることなく存在している「怪物」と、人間との間で起こる事件を描く作品である。

TVアニメは藍本松の漫画を原作とし、藤森雅也が監督、木村暢がシリーズ構成、亜細亜堂がアニメーション制作を担当した。音楽は森悠也が担当している。

物語にはさまざまな種類の怪物が登場するが、その中でも狐は一つの大きな勢力として描かれる。

特に重要なのが、

飯生
紺
野火丸

である。

飯生

『怪物事変』で狐勢力の中心となる人物が飯生である。

アニメ第3話の公式あらすじでは、飯生は「警察に強大な権力を持つ狐の怪物」と明記されている。

つまり単に狐耳を持つキャラクターではなく、作中設定として明確に狐の怪物である。

人間社会の警察組織へ強い影響力を持ち、主人公・夏羽が所持する「命結石」にも強い興味を示す。

そのため『怪物事変』の狐は、昔話の山中に暮らす化け狐ではなく、人間社会の権力構造へ入り込んで活動する存在として描かれている。

「狡猾な女狐」との並び

「狐の残り香」の直前、Disc 1の14曲目には「狡猾な女狐」が収録されている。

このタイトルは、飯生の印象と非常に強く結び付く名称である。

飯生は警察組織へ影響力を持ち、相手の思惑を利用しながら行動する狐の怪物として描かれる。第3話では彼女が狐勢力の中心人物として本格的に登場する。

ただし、公式サウンドトラックの商品ページでは「狡猾な女狐=飯生の専用テーマ」「狐の残り香=特定の誰かの専用テーマ」といった曲ごとの詳細説明までは掲載されていない。

したがって「狐の残り香」を飯生だけのテーマ曲と断定するのは避けた方がよい。

より安全には、

「狐勢力・狐にまつわる場面を表す劇伴」

として扱うのが適切である。

紺

『怪物事変』に登場するもう一人の重要な狐が紺である。

紺役の花守ゆみりは公式キャストコメントで、原作を読んだときから紺について「純粋すぎる子狐」という印象を持っていたと語っている。

つまり紺も明確に狐として位置付けられたキャラクターである。

第3話「狐」では、夏羽たちが飯生へ会いに警察署を訪れた際、紺が彼らの前へ現れる。第4話では夏羽の首を狙いながらも、夏羽たちの調査へ同行する展開が描かれる。

飯生の妖艶さ・狡猾さとは異なり、紺は純粋な子狐として描かれる。

同じ「狐」という種族の中でも、それぞれ異なる性格が与えられていることが『怪物事変』の特徴である。

森悠也は「紺ちゃん推し」

音楽を担当した森悠也は、アニメ公式サイトのスタッフコメントで、自身が「紺ちゃん推し」であることも明かしている。

これは「狐の残り香」の制作対象が紺だという証拠ではない。

しかし、『怪物事変』の音楽を作った本人が狐キャラクターである紺へ強い愛着を持っていたことは、狐関連劇伴を紹介するうえで興味深い情報である。

森は原作を読みながら、アニメーションでキャラクターが動く姿を想像して作曲していたと説明している。

野火丸

野火丸も狐の怪物側に属する重要人物である。

アニメ第7話の公式あらすじでは、

「飯生の部下だという狐の少年・野火丸」

と明確に説明されている。

つまり飯生の周囲には、

飯生
紺
野火丸

など複数の狐が存在している。

Disc 2には野火丸の名前そのものを冠した「野火丸」という劇伴も収録されており、楽曲時間は1分54秒である。

「狐の残り香」が狐側全般を想起させる曲名なのに対し、「野火丸」は一人の狐キャラクター名を直接タイトルにした劇伴である。

狐勢力を「音色」で表現

「狐の残り香」を狐関連楽曲として紹介する際、最も重要な制作情報の一つが森悠也の楽器選択である。

森は『怪物事変』の音楽制作について、怪物の種類ごとに異なる楽器を割り当てたと公式に説明している。

具体的には、

狸側=ガムラン
狐側=サントゥール
雪男子=オカリナ
作品全体=ケーナ

を使用したという。

これは単なる曲名以上に重要である。

『怪物事変』では、

「狐が出ているから狐という曲名を付けた」

だけではなく、

「狐が関わる場面には狐側の音色を与える」

という音楽的な設計が行われていたのである。

サントゥール

狐側の音色として選ばれたサントゥールは、台形の共鳴箱に多数の弦を張り、小さなばちで弦を叩いて演奏する打弦楽器である。

森悠也は公式コメントで、この楽器を「中央アジアの弦打楽器」と説明し、『怪物事変』の狐側を特徴付けるために使用したとしている。

そのため「狐の残り香」のような狐関連劇伴を聴く際には、メロディだけではなく、

「どのような音色が狐を表しているのか」

という聴き方もできる。

なぜ狐にサントゥールなのか

森悠也は公式コメントで、怪物ごとに楽器を使い分けたことは説明しているが、

「なぜ狐にサントゥールを選んだのか」

という具体的な理由までは語っていない。

したがって、

サントゥールの響きが妖狐の妖艶さを表している
狐の異国的な雰囲気を出すためだった

などと制作意図を断定することはできない。

確実なのは、

「狐側にはサントゥールという固有の音色が割り当てられた」

という点である。

「狸と狐の化かし合い」

「狐の残り香」から4曲後、Disc 1の19曲目には「狸と狐の化かし合い」が収録されている。楽曲時間は2分04秒である。

この題名は、日本で古くから用いられる「狐と狸の化かし合い」をそのまま思わせる。

『怪物事変』では狐だけでなく、隠神も「狸側」に属する存在であるため、

狸
対
狐

という構図が作中世界にも存在する。

森が狸側をガムラン、狐側をサントゥールという異なる楽器で描き分けていることを踏まえると、「狸と狐の化かし合い」は両者の音楽的個性が交わる曲名としても興味深い。

ただし、同曲の具体的な楽器構成について公式ページが個別に説明しているわけではないため、実際の使用箇所まで断定することは避ける必要がある。

「残り香」という言葉

「残り香」とは、人や物が去った後にも残っている香りを意味する。

そこから転じて、

誰かがそこにいた痕跡
消えた後にも残る気配
記憶や余韻

を表現する言葉としても使われる。

「狐の残り香」というタイトルからは、

狐そのものが目の前にいる

というより、

「狐がそこにいた痕跡」

を感じ取るような情景が想起される。

『怪物事変』は怪物たちが人間社会へ潜みながら活動する作品であるため、「姿はなくても狐の気配だけが残っている」という言葉は作品世界とも相性がよい。

ただし、森悠也が「残り香」というタイトルの意味を公式に解説した資料は確認できないため、ここは題名から読み取れるイメージとして扱うのが適切である。

狐と「ニオイ」

『怪物事変』のサウンドトラックでは、「狐の残り香」のほかに「怪物のニオイ」という曲も収録されている。こちらはDisc 1の22曲目である。

つまりアルバムには、

残り香
ニオイ

という、目に見えない「気配」を嗅覚的に表現する曲名が複数存在する。

『怪物事変』では正体を隠して人間社会に存在する怪物たちを扱うため、姿そのものではなく「痕跡」から怪物の存在を感じ取るという発想が作品世界に馴染んでいる。

ただし「狐の残り香」と「怪物のニオイ」が一つの音楽テーマを共有する、といった公式説明は確認できない。

狐は人間社会に潜む

『怪物事変』の狐が興味深いのは、山奥だけに暮らす妖怪ではないことである。

飯生は警察へ強大な権力を持つ。

野火丸は飯生の部下として行動する。

つまり狐たちは、

人間社会の外側から人を化かす存在

ではなく、

人間社会の内部へ入り込み、その仕組みを利用する怪物

として描かれる。

古典的な「人間に化ける狐」のイメージを、現代社会の権力や組織へ置き換えたような設定である。

「化ける狐」の現代的な表現

日本の狐伝承では、狐は人間へ姿を変え、人間社会へ紛れ込む存在として数多く語られてきた。

『怪物事変』でも狐の怪物たちは、人間とほとんど変わらない姿で社会の中に存在している。

ただし本作では、

旅人へ化ける
美女へ化ける
村人を騙す

という昔話的な世界ではない。

警察という現代的な組織へ食い込む。

情報や権力を利用する。

目的のために他者を動かす。

という現代社会型の「狐らしさ」へ置き換えられている。

「狡猾な女狐」「狐の残り香」「狸と狐の化かし合い」といった曲名にも、そうした作品の狐イメージが反映されていると見ることができる。

森悠也の音楽設計

森悠也は『怪物事変』の音楽について、人間に似た姿を持ちながら人間とは相容れない「怪物」たちの心情と世界観を根底に置き、さまざまなタイプの楽曲を制作したと説明している。

劇伴は一種類の暗いホラー音楽だけではない。

壮大なオーケストラ。

隠神探偵事務所の日常を描くコミカルな音楽。

ホラーテイスト。

バトル。

怪物ごとに異なる音色。

こうした幅を持たせ、とりわけ「日常と非日常のギャップ」を意識したという。

「狐の残り香」も、その多彩な音楽世界を構成する一曲である。

サウンドトラック

『TVアニメ『怪物事変』オリジナルサウンドトラック』は2021年3月24日に発売された。

CD2枚組で、公式サイトではDisc 1・Disc 2を合わせた多数の劇伴と主題歌TVサイズが掲載されている。

デジタル配信版では全49曲・約1時間53分として提供されており、「狐の残り香」は15曲目、2分15秒で配信されている。

Apple Musicでも森悠也の楽曲として「狐の残り香」が登録され、アルバム発売日は2021年3月24日と確認できる。

アルバム内の狐関連曲

サウンドトラックには、狐に関連するタイトルが複数存在する。

「狡猾な女狐」
「狐の残り香」
「狸と狐の化かし合い」
「野火丸」

である。

『怪物事変』の劇伴を狐という観点から聴く場合、「狐の残り香」一曲だけで完結させず、これらの楽曲と合わせて聴くことで、作品が狐勢力へどのような音楽的イメージを与えているかをより把握しやすい。

特に作曲者が「狐側」に専用の楽器を割り当てたことを明言しているため、複数の狐関連劇伴を比較する楽しみ方もできる。

原作とアニメ

『怪物事変』の原作は藍本松による漫画である。TVアニメ公式サイトでは、原作を集英社「ジャンプSQ.」連載作品として紹介している。

アニメ化に際して原作者の藍本松も制作へ関わり、公式コメントではアニメ用に再構成された脚本が原作の重要部分を押さえていることや、自身も監修へ深く参加したことを明かしている。

森悠也も原作を読みながらキャラクターの動きを想像して作曲したと述べている。

そのためアニメの劇伴は、映像だけを見て後から付けた音ではなく、原作キャラクターや怪物の性質まで踏まえて設計されている。

狐という「種族」のテーマ

「狐の残り香」を特定キャラクターだけのテーマに限定しない方がよい理由は、森悠也の公式コメントにある。

森は、

紺のテーマ
飯生のテーマ

という言い方ではなく、

「狸側」
「狐側」
「雪男子」

というカテゴリー単位で楽器を使い分けたと説明している。

ここから、『怪物事変』の劇伴ではキャラクター個人だけでなく「どの怪物側に属しているか」という種族・勢力の音楽的識別も意識されていたことが分かる。

その意味で「狐の残り香」は、狐という怪物種の存在感そのものを感じさせる題名である。

狐関連楽曲としての位置付け

「狐の残り香」は、狐との関係が明確なアニメ劇伴である。

確実に確認できる要素を整理すると、

使用作品『怪物事変』に狐の怪物が複数登場する
飯生は公式に「狐の怪物」と説明される
紺はキャストから「子狐」と表現される
野火丸は公式に「狐の少年」と説明される
サウンドトラックには狐関連タイトルが複数存在する
作曲者が「狐側」に固有の楽器としてサントゥールを使用したと明言している

という特徴を持つ。

特に最後の点が重要である。

狐は曲名にだけ存在するのではない。

音そのものにも狐が設定されている。

『怪物事変』では、狐を人間社会へ潜む怪物勢力として描き、その存在感を「狡猾な女狐」「狐の残り香」「狸と狐の化かし合い」といった題名、さらにサントゥールという特有の音色によって表現している。

その中で「狐の残り香」は、狐そのものの姿を前面に出すというより、狐が去った後にも残る気配や存在感を思わせるタイトルを持つ。

野生動物としてのキツネでも、古典の九尾の狐でもなく、『怪物事変』独自の「人間社会に潜む狐の怪物」を音楽で表現した、狐モチーフのアニメ・サウンドトラック楽曲である。

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