くみきょく『きゅうび』~たまものまえ/おんみょうざ 組曲『九尾』~玉藻前/陰陽座
「組曲『九尾』~玉藻前」は、日本のヘヴィメタルバンド・陰陽座による楽曲である。2009年9月9日に発売された9thアルバム『金剛九尾』に収録されており、「組曲『九尾』~玉藻前」「~照魔鏡」「~殺生石」と3曲にわたって展開する組曲「九尾」の第一章にあたる。作詞・作曲は瞬火が担当している。 題材となっているのは、日本を代表する妖狐伝説の一つ「玉藻前」である。美貌と知性によって宮廷に入り込み、鳥羽上皇の寵愛を受ける玉藻前が、実は強大な九尾の狐であったという伝説をもとにしている。 第一章「玉藻前」では、まだ正体を完全には暴かれていない玉藻前の妖艶さや誘惑が前面に出される。後に続く「照魔鏡」で正体が露見し、「殺生石」で物語が結末へ向かうため、本作は九尾の狐・玉藻前の物語への導入部分として位置付けられる。
基本情報
タイトル:組曲「九尾」~玉藻前
アーティスト:陰陽座
作詞:瞬火
作曲:瞬火
収録アルバム:金剛九尾
発売日:2009年9月9日
収録順:9曲目
楽曲時間:約5分38秒
発売元:キングレコード
国:日本
『金剛九尾』では、9曲目から11曲目に組曲「九尾」が連続して収録されている。
- 組曲「九尾」~玉藻前
- 組曲「九尾」~照魔鏡
- 組曲「九尾」~殺生石
3曲すべての作詞・作曲を瞬火が担当している。
組曲「九尾」
組曲「九尾」は、九尾の狐・玉藻前の伝説を三つの楽曲に分けて描いた作品である。
第一章「玉藻前」では、美しい女性として宮廷に入り込んだ玉藻前の妖艶な姿が描かれる。
第二章「照魔鏡」では、玉藻前の裏側にある邪悪な本性や九尾の狐としての正体が次第に明らかになっていく。
第三章「殺生石」では、正体を暴かれた九尾の狐が討伐され、やがて殺生石へと変じる伝説の結末へ進む。
そのため「玉藻前」だけでも一つの楽曲として成立しているが、三曲を続けて聴くことで、妖狐の出現から破滅までを一つの物語として楽しむことができる。
楽曲について
「組曲『九尾』~玉藻前」は、玉藻前が人間の男性を誘惑する場面を中心として描いた楽曲である。
歌詞では玉藻前と思われる女性が相手へ語りかけ、自らの美貌や魅力によって心を奪おうとする。
単純に「恐ろしい妖怪」として登場するのではなく、相手自身が彼女を求めてしまうほど官能的で魅惑的な存在として描かれている。歌詞の内容からも、相手を翻弄しながら徐々に自分の世界へ引き込んでいく人物像が確認できる。
この妖艶さが、後に明らかになる「九尾の狐」という正体との大きな対比となっている。
キツネとの関係
本作は、日本における九尾の狐伝説そのものを題材としているため、キツネとの関係は極めて強い。
主人公である玉藻前の正体は九尾の狐である。
ただし第一章「玉藻前」の段階では、九本の尾を持つ巨大な狐として暴れ回る姿よりも、「人間の美女に化けた狐」という部分が中心となっている。
これは日本の妖狐伝承における代表的な特徴の一つである。
狐は人間へ化ける。
特に美しい女性へ姿を変える。
人間へ近づき、魅了する。
そして本当の正体を隠したまま相手を惑わせる。
「玉藻前」では、この「美しい女性へ化ける狐」という妖狐の性質が、楽曲全体の核となっている。
玉藻前とは
玉藻前は、日本の妖狐伝説に登場する絶世の美女である。
伝説では非常に美しく博識な女性として宮廷に仕え、鳥羽上皇から深く寵愛されたとされる。
しかし、上皇が原因不明の病に倒れたことで玉藻前が疑われ、陰陽師によってその正体が狐の妖怪であると見破られる。
その正体こそが、長い年月を生きて強大な妖力を得た「九尾の狐」であった。
この物語は後世の文学、能、歌舞伎、浄瑠璃、説話、現代の漫画・ゲームなどへ幅広く受け継がれ、日本を代表する妖狐伝説の一つとなった。
「組曲『九尾』」は、この玉藻前伝説を陰陽座独自の音楽表現によって再構成した作品である。
美しい女性へ化ける九尾の狐
玉藻前伝説における重要な要素が「変化」である。
狐は日本の伝承で、人間の姿へ化ける能力を持つ動物として長く語られてきた。
中でも、美しい女性の姿で男性へ接近する狐は、妖狐物語の代表的な型の一つである。
玉藻前はその究極ともいえる存在であり、単なる村人ではなく、宮廷でも比類のない美女として姿を現す。
「組曲『九尾』~玉藻前」でも、この美貌による誘惑が中心となっている。
人間は目の前にいる女性が狐だとは知らない。
そのため、妖狐の恐怖は巨大な怪物として現れることではなく、「美しく魅力的だからこそ正体に気付けない」という部分にある。
誘惑する妖狐
第一章「玉藻前」では、九尾の狐の最大の武器は妖力そのものより「誘惑」である。
玉藻前は相手へ積極的に語りかけ、理性よりも欲望へ従うよう誘導していく。
この構図は、妖狐が人間を力ずくで倒すのではなく、人間自身の欲望につけ込んで破滅させるという伝承的な狐像と重なる。
相手は被害者でありながら、自分から玉藻前へ惹かれている。
つまり「騙された」というだけではなく、「騙されたいと思うほど魅力的な狐」として描かれているのである。
この妖艶さが、「玉藻前」という楽曲の大きな特徴となっている。
鳥羽上皇との関係
玉藻前伝説では、彼女に魅了される人物として鳥羽上皇が登場する。
玉藻前は宮中でその美貌と知識を称賛され、やがて上皇から深い寵愛を受けるようになる。
しかし、その頃から上皇は原因不明の病に苦しむようになる。
後に玉藻前が妖狐であることが露見すると、この病も妖狐によるものだったとされる。
「組曲『九尾』~玉藻前」では、まだ正体が明らかになる以前の関係を中心に、玉藻前が相手の心を奪っていく姿が描かれている。
そのため、物語としては「破滅の前の最も美しい時間」に当たる。
正体を隠した狐
本作では、「本当の姿を隠す」という狐の特徴も重要である。
第一章の時点で玉藻前は、人間の美女として振る舞っている。
しかし聴き手はタイトルが「組曲『九尾』」であることを知っているため、最初から彼女が九尾の狐であることを理解している。
つまり、
物語の登場人物は正体を知らない。
聴き手だけが正体を知っている。
という構造になっている。
そのため玉藻前の甘い言葉や誘惑も、聴き手にはすべて「狐の化かし」として聞こえる。
この視点の違いが、楽曲に独特の不穏さを与えている。
九尾の狐
九尾の狐とは、九本の尾を持つ霊狐・妖狐である。
中国を中心とする東アジアの古い文献や伝承に登場し、日本にもその物語が伝わった。
時代や作品によって、
吉兆を示す霊獣
長寿の霊狐
仙術を身につけた狐
人間を惑わせる妖怪
国家を傾ける魔性の美女
など、さまざまな姿で描かれてきた。
日本では玉藻前伝説によって「絶世の美女へ化け、人間社会へ入り込む強大な妖狐」というイメージが特に有名になった。
陰陽座の「組曲『九尾』」も、この妖怪としての九尾の狐を中心に据えている。
「玉藻前」という第一章
三部作の第一曲が「九尾」ではなく「玉藻前」と名付けられていることも重要である。
この段階で描かれているのは、まだ巨大な狐の怪物ではない。
人間社会の中で「玉藻前」と名乗っている時期の九尾である。
つまり本作は、
妖怪としての九尾
ではなく、
人間として振る舞っている九尾
を描いた章である。
そのため楽曲にも、恐怖より先に妖艶さや美しさが強く現れている。レビューでも「玉藻前」は官能的な歌詞と比較的ポップなアプローチを持つ組曲の導入部として評価されている。
「照魔鏡」への展開
「玉藻前」の次に配置されているのが「組曲『九尾』~照魔鏡」である。
照魔鏡とは、妖怪や魔物の正体を映し出す鏡を意味する言葉である。
第一章では完璧な美女として人間を誘惑していた玉藻前だが、第二章になると次第にその仮面が剥がれていく。
つまり、
「玉藻前」=人間の美女としての姿
「照魔鏡」=正体の露見
「殺生石」=九尾の狐の末路
という三段階で物語が進む構成になっている。
このため「玉藻前」は、後の悲劇を知っているほど妖しさが増す第一幕となっている。
「殺生石」への展開
組曲の最終章となるのが「組曲『九尾』~殺生石」である。
玉藻前の正体が九尾の狐だと明らかになった後、妖狐は朝廷側から討伐される。
そして伝説では、死した九尾の狐は毒気を放つ石「殺生石」へ姿を変えたとされる。
つまり「玉藻前」で見せた美しい女性の姿は、最終的に殺生石という恐ろしい存在へつながっていく。
人間の美女
↓
九尾の狐
↓
殺生石
という変化そのものが、組曲「九尾」全体の大きな物語となっている。
アルバム『金剛九尾』
「組曲『九尾』~玉藻前」が収録された『金剛九尾』は、2009年9月9日に発売された陰陽座の9thアルバムである。
収録曲は以下の12曲である。
- 貘
- 蒼き独眼
- 十六夜の雨
- 小袖の手
- 孔雀忍法帖
- 挽歌
- 相剋
- 慟哭
- 組曲「九尾」~玉藻前
- 組曲「九尾」~照魔鏡
- 組曲「九尾」~殺生石
- 喰らいあう
アルバム名そのものに「九尾」が入っているだけでなく、9枚目のアルバムを2009年9月9日に発売し、組曲「九尾」を9曲目から配置するという、「九」という数字を強く意識した構成になっている。
アルバム発売後には、全国ツアー「三国伝来玉面金剛九尾の狐」も開催された。
陰陽座と妖怪
陰陽座は、日本の伝承、妖怪、怪談、歴史、古典文学などを題材とした楽曲を数多く制作してきたヘヴィメタルバンドである。
その中でも「組曲」と題された作品では、一つの物語や人物を複数曲にわたって描く形式が用いられている。
「組曲『九尾』」では、日本妖怪文化の中でも特に知名度の高い九尾の狐・玉藻前を題材とし、
美女への変化
人間への誘惑
狐の正体
討伐
殺生石
という伝説の流れを三曲に分けて描いている。
陰陽座について
陰陽座は、日本のヘヴィメタルバンドである。
和装を取り入れたヴィジュアル、日本語の古語や漢語を多用した歌詞、日本の妖怪・伝承・文学・歴史を題材とする世界観を特徴としている。
「組曲『九尾』~玉藻前」では、その陰陽座らしさが特に強く表れている。
九尾の狐を単純な怪物として描くのではなく、まず人間の美女・玉藻前として登場させ、その妖艶さ、誘惑、偽りを描いたうえで、後続曲によって本性と末路を明らかにしていく。
キツネがタイトルだけに登場する作品ではなく、日本を代表する九尾の狐伝説そのものを三部構成で描いた作品の第一章であり、狐文化との関係が極めて深い楽曲である。